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間もなく折り返し点の『わろてんか』、後半はもっと面白くなる!?

碓井広義メディア文化評論家
大阪 通天閣と新世界(ペイレスイメージズ/アフロ)

スタート時の期待

10月に始まったNHK朝ドラ『わろてんか』。気がつけば、もう間もなく前半戦が終了します。

このドラマがスタートした頃、週刊誌の取材を受けて、以下のように答えたことがありました。

「何といっても、吉本興業に触れることが勇気あるドラマといえるでしょう。単純にヨイショで終わるはずはありませんし、加えて、芸能あるいは芸能界の陰の世界をどこまで見せるのか、どう描くのか。それを切り捨ててしまうことはないと思いますし、踏み込んだ展開が楽しみです。

『カーネーション』(11年度下半期)で描かれた、「コシノ3姉妹」の母親の場合、その不倫までドラマの中に取り込み、一歩踏み込んだ作品となっていました。朝から「いけない恋」を描くのかと、当時大きな話題となったものです。

今回の『わろてんか』も、単なるキレイ事の作品にするのではなく、描かなければならないことはしっかり描き、ドラマに広がりや奥行きをぜひ持たせてほしいところです。難しいところではありますが、恐らくそこまで描かないとドラマに真実味が出てこないでしょう」(サンデー毎日 2017年10月15日号)

「北村てん」と「吉本せい」

あれから3ヶ月。ここまで見てきて、今、反省していることがあります。それは、吉本興業の創業者である「吉本せい」の生涯を、ドラマの形で見られるのではないかと期待し過ぎていたことです。

確かに、NHKは放送前から、「吉本せいをモチーフにしてはいるが、あくまでもフィクション」だと強調していました。ついそのことを忘れて、ドラマの中に「吉本せい」を見ようとしていたのです。

あらためて、「北村てん(葵わかな)」と「吉本せい」は別人なのだと思わなくてはならない。せいは、てんのように京都の老舗薬問屋に生まれた「お嬢さん育ち」ではありませんし、幼少期から「笑い」にこだわっていたわけではなかったですし、夫となる吉本泰三と「運命的な出会い」や「駆け落ち」をしたこともありません。

また吉本せいは、てんのように、いつ見ても、何があっても、ひたすらニコニコ笑っているような女性でもなかった。てんとせいの共通点は、いきなり家業とは無関係な寄席を手に入れた夫がいたこと、そして必死で新事業の成功を目指したことでしょう。

後半こそが見せ場!?

主演の葵わかなさん、よく頑張っているとは思います。ただ残念ながら、清濁併せ呑むような骨太さをもつ「吉本せい」と比べると、「北村てん」という女性が、物語全体を引っ張るキャラクターとして、やや弱いのです。いや、弱く設定されているのです。そのため、松坂桃李さんや高橋一生さんなど、男たちのほうにばかり目が行くような印象を受けてしまいます。

特にここしばらくは、落語家・桂春団治をモデルにしているらしい月の井団吾(波岡一喜)と兄弟子の団真(北村有起哉)、そして間に挟まれた師匠の娘・お夕(中村ゆり)という3人のエピソードが面白く描かれ、本筋であるてんや藤吉(松坂)を忘れそうでした。

ここまで、視聴率はそれなりかもしれませんが、「面白いのか、面白くないのか、よくわからない」という感想を聞くことが多かった『わろてんか』。年明けからの後半戦では、モチーフとしての吉本せいの生涯を、ある程度”なぞる”という意味でも、藤吉が亡くなった後の、てんの奮闘が描かれるはずです。

夫との二人三脚ではなく、一人の「女興行師」となったてんが、どのようにして関西の笑いの世界で“天下を取る”のか。そのプロセスの喜怒哀楽を早く見たいものです。その際、シナリオで、もう少しヒロインを立ててほしいと思います。

また、チーフディレクターの本木一博さんも、大河ドラマ『軍師官兵衛』などを手がけてきた、チカラのある演出家です。後半戦は、てんを応援したくなるような多くの見せ場を作って、前半以上に楽しませてくれることを願っています。

「吉本せい」の実像は?

そうそう、「吉本せい」の実像を知りたい方には、矢野誠一『新版 女興行師 吉本せい~浪花演藝史譚』(ちくま文庫)を、またせいをモデルにした小説では山崎豊子『花のれん』(新潮文庫)を推薦しておきます。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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