日本のラーメン模様のどんぶり、実は中国には存在しなかった!
日本でラーメンを食べるのが中国人の旅の楽しみ
日本ではお正月休みに入った人が多いが、中国では新暦ではなく旧暦で春節を祝う習慣がある。次の春節は1月下旬(1月24日~30日)なので、まだ少し先なのだが、年末で混み合う日本の空港やターミナル駅でも多くの中国人を見かける、と感じている人が多いだろう。
観光庁の統計によると、中国からの訪日客は今年1月~11月までの統計で約888万人。前年同期比で約14%も増加している。この分で行くと、年間で初めて1000万人に到達しそうな勢いだ。今や時期を問わず、来日しているといってもいいのである。
中国では景気が悪いというニュースを聞くが、中国人にとって今の日本は「安・近・短」。つまり、安心安全で、距離が近くて、短時間でも楽しく過ごせる最高の観光地だからだ。
そんな彼らにとって、日本旅行の最大の目的は「食事」になりつつある。中でも人気なのがラーメンだ。最近では、天ぷらや寿司よりも、ラーメンや焼き肉の人気のほうが高い。
中国人観光客にとって、とくに好みなのが豚骨ラーメン。中国の麺料理にはない、こってりとしたスープが彼らの舌にバッチリ合うらしい。また、中国には日本の「味千ラーメン」を始め、九州の豚骨ラーメンの名店が多数進出しており、「中国で食べたあの味を本場の日本で……」と思って、わざわざ日本に食べにくる人が多い。
だから、「日本では醤油や味噌ラーメンも人気だよ」というと、中国人はとても驚く。豚骨ラーメンが日本でも一番人気だと思っているからだ。
ところで、私は書籍の取材中、中国人とラーメンについて調べていて、ちょっと気になったことがある。日本には昔ながらのラーメン店で見かけるラーメン模様のどんぶりがある。
ラーメン模様のどんぶりと聞いてもすぐにピーンと来ない人がいるかもしれないが、ラーメンどんぶりの内側や外側の縁をぐるりと囲んでいる四角い渦巻のような、あの模様のことだ。
四角い渦巻、ドラゴンの模様といえば・・・
近年、おしゃれなラーメン店では独自のどんぶりを使うため、ラーメン模様はあまり見かけなくなったが、昔ながらのラーメン店では、今もこのラーメン模様のどんぶりを使っているところがけっこうある。自宅にこのラーメンどんぶりが家族分ある、という人もいるだろう。
日本人がこの模様のどんぶりを目にすると「ザ・ラーメン」という感覚を抱くが、よく考えてみると、私は中国でラーメン模様のどんぶりを見かけたことがない。中国ではラーメン模様のどんぶりに限らず、「これはラーメン専用のどんぶりだ」という決まったものも存在しない。
自分が見かけたことがないだけなのか、中国には存在しない模様なのか――。
調べてみると、この模様は、なんと日本発祥であることがわかった。
1910年、浅草で日本初のラーメン店とされる「来々軒」がオープンしたが、当初はラーメンを食べる際も親子丼などで使う和食用のどんぶりを使用していた。しかし、次第にラーメン人気が広がり、浅草・かっぱ橋にある陶器卸専門店が専用のどんぶりを作ったのが最初だといわれている。
ラーメン模様は「雷紋」(らいもん)と呼ばれる図柄で、古代中国では魔除けの意味があるとされる。ほかに唐草模様や「喜」の漢字を2つ横に並べた「双喜模様」、龍の模様などもある。店によってはラーメン模様と龍の模様の両方がデザインされたどんぶりもある。
これまでじっくりラーメンどんぶりの内側や外側を観察したことはなかったが、確かにそれらの模様があるだけで、日本人にはそれが「ラーメンどんぶり」だとすぐにわかる。
日本で生まれ育った人なら、ラーメンどんぶりにうどんやそばを入れて食べようと思う人は、ほとんどいないだろう。もし、ちょうどいい器がなくてそうしたら「何となく落ち着かない」「ちょっと合わない」と感じるはずだ。
しかし、中国では、同じどんぶりをいくつもの料理で使う。日本のように「これは焼き魚用」、「これはカレー用」といった器の使い方はしない。
「いかにも中国らしい模様だから」という理由で広がったラーメンどんぶりは、今も中国人が知らないところで、多くの日本人に、見るだけで「ラーメン」を連想させる。取材をしていて発見した、思いがけないエピソードだった。