ただ「うるさい」わけじゃない 学校がPTAに個人情報を無断提供すると、どんなトラブルが起き得る?
今年の春から改正個人情報保護法が施行され、PTAや子ども会が、学校から個人情報(名簿)を保護者に無断でもらうことができなくなりました。
もし各保護者の同意なく情報を受け取れば、PTAは義務違反を犯すことになります。
「個人情報、個人情報ってうるさいなぁ。学校やPTAの現場では、そんなことどうでもいいんだよ」とお思いの方も、おいでかもしれません。
しかし、そもそもなぜこのような法令(法律や条例)ができたのかといえば、実際にトラブルが起きてきたからです。
学校がPTAに保護者の同意なく個人情報を渡すと、どんな問題が起き得るのか? いくつかの例を紹介しましょう。
*1 知られたくない事情が他人に知られてしまう
保護者のなかには、無断で個人情報を流されてしまうと被害・損害を受ける人もいます。
たとえばDV・ストーカー加害者である元配偶者から身を隠している親子など、万一名前や連絡先がPTA会員の保護者から外部に漏れてしまえば、大変なことになります。
実際、行政のミスで被害者の居所が加害者に知られてしまい事故につながったケースや、さらなる転居をせざるを得なくなったケースもあります。
学校やPTAから情報が漏れるケースも十分考えられるでしょう。
里親家庭も、勝手に個人情報を流されると困ることがあります。
里子は多くの場合、通称名として里親の苗字を使っています。ところが、学校が住民票にもとづいた実名をPTAや子ども会に伝えてしまうと、それによって子どもがいやな思いをしてしまう可能性があるからです。
そのため、ある里親会が作成した学校へのお願い書きには、「PTAや地域の子ども会に提供する名簿は通称名を使用してほしい」という旨が書かれています。しかし、そもそも学校が保護者に無断で名簿提供などしなければ、こんなお願いはしなくていいのです。
*2 家庭の事情や病気のことなどを言わされる
現状のPTAでは、委員や役員をできない人は「できない理由」を言わされるのが“当たり前”になっていますが、これも冷静に考えると大変異様なことです。
PTAはやりたい人がやるボランティア活動で、任意加入の団体ですから、本当は入りたい人・やりたい人が「やります」といえば済むはずです。
やらない理由を告げる必要など、本来はないのです。
なぜ、できない人がわざわざ理由を言わなければいけなくなっているのかというと、学校の名簿がPTAにわたり、勝手に「保護者=PTA会員」とされているからです。
悪質なケースでは、役員(活動)をできない人に対し「離婚や死別など家庭の事情の申請」や「病気の診断書」といった要配慮個人情報の提出を求めるPTAもあります。
いわゆる「ふつうの家族」として暮らす人は、個人情報の取り扱いの重要性を、ふだんそれほど切実に感じることはないでしょう。
しかし、世の中にはいろんな家庭や生活環境があります。個人情報を周囲に知られたくない人も、少なからず存在するのです。
ちょっと想像を広げて、なぜ個人情報保護法令(法律や条例)が存在するか、その意味を考えていただけたら幸いです。
*矢面に立つのは学校ではなくPTA
なお、いつも個人情報の提供を受けるPTA側の問題ばかり書いていますが、そもそも問題の発端は、保護者の同意なくPTAに個人情報を渡す学校の側にあります。
しかし公立の学校は、個人情報保護「法」ではなく、各自治体にある個人情報保護「条例」の対象です。ですから個人情報保護委員会に通報しても、学校を指導してもらうことはできません。
大変多くの学校が条例違反をしている現在の状況について、文部科学省はどのように考えているのでしょうか? 問い合わせたところ、以下のような回答でした。
「学校は基本的に、各自治体の条例にもとづいて、適切に情報共有することが大事になってくると思います。我々からは、それをお伝えすること以外は、なかなか難しいというふうに思っております。
(条例違反については)まずは自治体にお問い合わせいただくのが適切かと思います」(初等中等教育局)
ここはやはりPTA側が「保護者同意のない個人情報を、学校から受け取らない」という認識を徹底していくことが必要です。
もしこういった情報提供でトラブルが起きた場合、矢面に立たされるのは、個人情報を保護者に無断で提供した学校ではなく、PTAの役員かもしれません。
実際に、都内の公立小学校のPTAで副会長をしていたT子さんは、パトロールの当番表に勝手に連絡先を載せられたという保護者から「激しいお怒りの電話」を受けたことがあるそうです。
この方にどんなご事情があったかはもちろんわかりませんが、翌年度からT子さんのPTAでは学校から名簿をもらうのをやめ、加入申込書を配るようにしたということです。