奪三振率50%を誇るダルビッシュのフォーシームはメジャー最高級の”チェンジアップ”
今季ここまで5勝1敗、防御率1.75と好調なサンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有。先発した10試合でチームは9勝1敗とチームに確実に勝ち星を与えるエースとしての役割を果たしている。
今季のダルビッシュはフォーシームをチェンジアップのように打者のタイミングをずらす球として使い、驚異の奪三振率50%を誇っている。
上の表はダルビッシュのシーズンごとの球種別投球割合だ。
2018年まではフォーシームが4割近くを占めていたが(2018年は37.3%)、19年は26.8%、昨季は14.6%、今季も18.6%とフォーシームは2割にも満たない。
こちらはダルビッシュの過去5シーズンのフォーシームに関するデータ。この5年間、平均球速と平均回転数には大きな違いはないが、投球割合が大きく下がった昨季以降、空振り率と三振率が急上昇して、被打率が大きく下がってきた。
ボールの質は同じながら、ボールの使い方を変えたことで、相手打者がフォーシームを捉えられなくなったことを示している。
昨季からダルビッシュは、フォーシームを「チェンジアップ」のような感じで、打者を惑わす球として使っている。
通常、チェンジアップは速球と同じ腕の振りで、速球よりも遥かに遅い球を投げて、打者のタイミングをずらす球。ダルビッシュのフォーシームは逆転の発想で、同じ腕の振りから速い球を投げる。
今季のダルビッシュは平均85.9マイル(約138キロ)のカッターが37.9%、平均81.6マイル(約131キロ)のスライダーが23.2%で、この2つの球種で60%を超える。
135キロ前後の球に目が慣れた打者は、平均94.6マイル(約152キロ)のフォーシームを投げられると、15キロ以上の球速差への対処は非常に難しい。メジャーの打者は100マイル(約161キロ)の速球でも、同じ速さの球が続けば比較的簡単に打てる技術を持っているが、138キロのカッターを待っているところに152キロの速球が来れば、なかなか手を出せない。
フォーシーム、カッター、スライダーを同じフォームから投げ、球の軌道もホームベースに近づくまで同じなので、打者はダルビッシュが何を投げたのかをギリギリまで判断できない。
ダルビッシュのフォーシームのスピードと回転数はここ数年あまり変化はないが、回転効率は過去2年で大きく改善された。2500台とメジャートップクラスの回転数をキープしながら、回転効率を70%前半から80%後半まで上げたことで、ボールのホップ成分が増して、浮き上がるような球となった。
昨年9月にダルビッシュが公式ユーチューブ・チャンネルで語った説明によると、「(2019年までのフォーシームは)ボールの外側を切るようなリリースで、完全なバックスピンではなく、ジャイロが混ざっている感じになっていた。ジャイロ回転が入れば入るほど、スピン効率が落ちて、勢いのない伸びない球になってしまう。(2020年は)スピン効率を上げるために、キャンプから握りを変えたりとか色々と試していた。僕は(フォーシームは)シュート気味が良いと思っているので、意識してシュート回転をかけてみた」と回転効率を上げることに取り組んだと明かしている。
フェード気味のフォーシームで打者を惑わせることで、今季は43.3%の空振り率を誇っている。このフォーシームの空振り率43.3%は、今季フォーシームを100球以上投げた投手の中ではメジャー3位で、150球以上だとメジャートップの数字。参考までにニューヨーク・ヤンキースのゲリット・コールのフォーシームは空振り率30.9%、ニューヨーク・メッツのジェイコブ・デグロムは36.0%である。
ダルビッシュのフォーシームがプレーに直接影響を与えた打数は28回あるが、半分にあたる14度は三振を奪っている。フォーシームの奪三振率50%はメジャー2位にランクする。フォーシームの被打率は.154で、ほとんど打たれていない。
メジャー最高のチェンジアップの使い手の一人であるデグロムは、今季のチェンジアップ(投球割合は11.9%)で、空振り率45.9%、奪三振率57.9%を記録。コール(チェンジアップの投球比率15.0%)は空振り率37.8%で、奪三振率38.0%を残している。
ダルビッシュのフォーシームは球種としてはチェンジアップではないが、使い方的にはチェンジアップで、デグロムのチェンジアップに匹敵する結果を残す、メジャー最高級の”チェンジアップ”と呼べる。