兵庫・淡路島で奮闘する動物の耳科専門医 “患者”に優しい治療を実践
兵庫県・淡路島には、国内で数少ない動物の耳の診療に特化したクリニックがあります。院長の杉村肇さん(59)はより高度な治療に取り組もうと、動物だけでなく、人の耳科の症例や治療法も学んでいます。日々の診療では、それらをどう生かしているのでしょうか。
杉村さんは2014年、それまで営んでいた動物の総合診療クリニックを、耳の診療に特化した「どうぶつ耳科専門クリニック主(しゅ)の枝(えだ)」(兵庫県洲本市)に切り替えました。耳の病気を治療すると、見違えるように元気になるペットたちを目の当たりにして、耳科に集中したいと考えたからです。
クリニックには、近隣だけでなく、北陸や東海、九州など遠方からも犬や猫などの「患者」が訪れます。地元の病院で診てもらっても良くならず、紹介されて訪れるケースも多いそうです。杉村さんは、ペットの耳科診療では一般的でない全身麻酔や、人間に使う内視鏡も駆使して診療します。
杉村さんによると、ペット、特に犬の耳の病気は多く、他の病気が隠されているケースもあります。「もともとアトピー性皮膚炎や食物性アレルギーなどの病気にかかっていて、自然治癒力が欠落した結果、耳の病気として現れるのです」(杉村さん) 食物アレルギーの犬の80%が外耳炎を併発し、そのうち25%は現れる症状が外耳炎のみという調査結果も出ています。
人の耳科学会にも所属、大学の医学部で聴講も
しかし、日本では獣医師が耳科を体系的に学ぶ体制が十分ではありません。このため、杉村さんは、動物関連の学会だけでなく、人の耳の症例について学ぶ「日本耳科学会」などにも所属。大学の医学部で耳科の講義も聴講し、そこで得られる情報を動物の耳科に応用できないか探っています。
こうして学んだ人の症例が診療に役立つこともあります。例えば、慢性の炎症で耳の内部がボコボコにはれ上がり、耳道がほとんどふさがってしまった犬のケースです。杉村さんは、内視鏡を用いて耳の中に堆積した汚れを洗浄。その結果見つかった腫瘍を内視鏡で取り除いたり、人の耳鼻科で使う医療器具「ケリソンパンチ」(骨や軟部組織を切断する器具)でボコボコした部分を切り取ったりして、ふさがっていた耳道を開きます。
一般的に、こうした重い症状の場合は、犬にとって大きな負担となる耳道の切除などの外科手術を行うケースが多いです。しかし、杉村さんは「まず耳の中を洗浄して精査し、内視鏡による治療や投薬、食事管理などを行えば、必ずしも外科手術をする必要はありません。クリニックの患者だけでみれば、外科手術を行うケースは10分の1程度に減りました」と話します。
「これからも経験を積み重ね、飼い主さまの希望に応じて、より高度な医療を提供したいです」と語る杉村さん。淡路島で、奮闘を続けます。
撮影=筆者(一部提供)