好調な春闘で私たちの実質賃金は上がるのだろうか?
今年、2024年の春闘について、連合が3月15日午前10時までに経営側から回答が示された771社の労働組合の状況について公表したところ、定期昇給分とベースアップ相当分をあわせた賃上げ額は月額1万6469円、賃上げ率では5.28%となり、1991年の5.65%以来、33年ぶりに5%を超えました。
また、去年2023年の同じ時期と比較しても賃上げ額は4625円、賃上げ率では1.48ポイント上回っています。
非正規労働者の時給の引き上げ額は平均71.10円ではありますが、連合が集計を取り始めた2013年以降で最も高くなりました。
こうした大企業の好調な春闘は、私たちの暮らしぶり、具体的には実質賃金を上昇させるのでしょうか?
実質賃金とは何でしょうか?なぜ注目されるのでしょうか?例えば、いま1万円札が手元にあるとして、この1万円で1個100円のリンゴを買うとすれば100個買えますが、リンゴが200円に値上がりすれば同じ1万円でも50個しか買えないことになります。つまり、リンゴで測った1万円の価値がリンゴの値上げで半分になってしまったのです。このように、賃金の実質価値は私たちのお金の購買力を示すので、私たちの暮らし向きを表す重要な指標となるのです。
思い出されるのは昨年の春闘も賃上げ率3.58%と1993年の3.90%以来30年ぶり高水準となったのですが、2023年の実質賃金は▼2.5%減に終わっています。名目賃金は伸びたものの、物価の大幅な伸びに追いつかなかったからです。
つまり、春闘が記録的な上げであっても、インフレがそれを上回ってしまえば、私たちの暮らし向きはよくなることはありません。
そこで、1991年以降の春闘賃上げ率(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と賃金上昇率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」現金給与総額(5人以上))等の関係から、2024年の賃金上昇率を予測してみました。
その結果、春闘賃上げ率を5.28%とすると、2024年の賃金上昇率(名目)は3.0%と見込まれることになります。
一方、名目賃金を実質化するのに用いられる物価指数は、消費者物価指数のうち持ち家の帰属家賃を除く総合というものですが、政府経済見通しで推計されているのは総合指数しかありませんから、この総合指数で実質化すれば、2024年の実質賃金は+0.5%の上昇が見込まれることになります。蛇足ですが、確かにプラスとはなりますが、誤差みたいなものですので、力強い上昇とは到底言い難い感じですね。
大企業の春闘の結果が好調だと盛んに報道されますが、大企業や日本経済の屋台骨を支える中小、零細企業が賃上げを行えない限り、マクロで見た実質賃金の改善は見込めませんし、当然、消費の回復も見込めないでしょう。
もちろん、実質賃金の動向は、今後の物価動向にも依存しますので、日本銀行の金融政策にも注目と言えるでしょう。