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英国の元王者同士“戦わざるライバル対決”は数年後の「井上尚弥vs井岡一翔」?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カーン(左)vsブルック(写真:ロイター/アフロ)

発売直後に完売。報酬はキャリアハイ

 中量級で一世を風靡した英国の大物同士、アミール・カーンvsケル・ブルックの12回戦が19日(日本時間20日)英国マンチェスターのAОアリーナで行われた。結果は元IBF世界ウェルター級王者ブルックが6回51秒TKO勝ち。予想有利のブルックがワンサイドに攻防を支配し、2年半ぶりのリングだった元スーパーライト級&ウェルター級世界王者カーンをストップに持ち込んだ。

 35歳同士。これまで何度も対戦機運が高まり、リング上で両者が対面することもあったが、日の目を見ることがなかった。「戦わざるライバル」と言われたのはそのためである。同時にようやく試合が決定すると「盛りを過ぎた大物対決」、「時期を逸したビッグマッチ」といった見出しや記事が並んだ。

 しかし興行的な見地から、それは杞憂に終わった。昨年12月、チケットが発売されるとわずか10分で完売してしまい、人気の高さを実証。当日アリーナは2万2000人の観衆で埋まった。同じくPPV(ペイ・パー・ビュー)購買数も好調で、Aサイド(主役)のカーンは報酬の保証額300万ドル(約3億4500万円。1ドル=115円として計算)が800万ドル(約9億2000万円)に跳ね上がり、ブルックも100万ドル(約1億1500万円)の保証額がPPVのパーセンテージにより、400万ドル(約4億6000万円)までアップするという。

 これはカーンのビッグファイト、対カネロ・アルバレス、対テレンス・クロフォードよりも多く、ブルックも対ゲンナジー・ゴロフキン、対エロール・スペンス、対クロフォードをしのぐ金額だと推定される。

ユーチューブ上で話題

 試合前の会見でカーンは「人々は実現が遅すぎたと言っているけど、よりイベントの規模が大きくなった。私は絶好の時期に開催されると思う」とアピール。ウィン-ウィンの状況を見据えた。

 試合のバナーやプロモーションで「カーンvsブルック」だったのはネームバリューのせいだろう。同じく会見で「ケルは私にオタクのように取りついてきた」とカーンが語ったように是が非でも対戦を実現させたかったのはブルックだと推測される。そしてお互いに上記のファイトマネーをゲットできる相手は他に存在しなかった。

 このカードの成功に端を発して今後、この手のビッグネーム対決が実現に向かうかもしれない。少なくともCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響下で往年の名選手が何十年ぶりに復帰しエキシビションマッチを行うことと比べれば歓迎できる。日本選手絡みでこういうカードは?となると、すぐには浮かんで来ない。しかし「何年か経過したならば」と想定すると、ウエートクラスが近い井上尚弥(大橋=WBAスーパー&IBF世界バンタム級統一王者)と井岡一翔(志成=WBO世界スーパーフライ級王者)のドリームマッチが真っ先に思い浮かぶ。

 1月、井上が井岡との対戦に興味を示すような発言をしたことから、ボクサーや関係者が発信するユーチューブではさまざまな意見が飛びかっている。それらを見る限り「2人が対決するなら今年しかない」という風潮が主流だと感じられる。

井上の最新試合、アラン・ディバエン戦(写真:ボクシング・ビート)
井上の最新試合、アラン・ディバエン戦(写真:ボクシング・ビート)

2人とも今、同じ目標に邁進

 だが現実問題として今、2人には対決に向けて接点が見当たらない。井上はバンタム級で、井岡はスーパーフライ級でアンディスピューテッド・チャンピオン(比類なき王者)君臨を第一目標に掲げている。2人の思惑通りに事が進展しないケースも考えられるが、まずはその崇高なスピリットを尊重しなければならない。

 また122ポンド(スーパーバンタム級)進出も視野に入れ出した井上に対し、ミニマム級からプロキャリアをスタートさせた井岡の上限は今の115ポンド(スーパーフライ級)ではないかと想像する。やはり現状では接点がないのである。

 しかし118ポンド(バンタム級)と115ポンドは3ポンド(1.36キロ)しか違わない。今後、井岡の前にどんなことが起きるか全く予測できないが、スーパーフライ級で全ベルトを巻いた暁にはバンタム級転向を視野に入れる可能性も浮かぶ。

 その時点で井上がまだバンタム級に留まっている保証は全くない。おそらくスーパーバンタム級で強敵たちと渡り合っているのではないだろうか。米国メディアの多くは“モンスター”の強さとパフォーマンスに舌を巻くと同時にマニー・パッキアオのように複数階級制覇を期待する。そして「126ポンド(フェザー級)までは固いのではないか」と読む記者もいる。

待たせることも必要?

 さすがに井岡がフェザー級まで増量する姿は想像できない。だが、井岡がバンタム級にフィットした場合、一挙に巨頭対決に突っ走るシナリオも想定可能。体重を増やしても自慢のテクニックに衰えがないと井岡が悟れば、交渉は進展するのではないだろうか。もちろん井岡には年齢的なプレシャーがある(現在32歳、井上は28歳)。それでもカーンとブルックが35歳になって対戦したように、あと3年後でも日本のファンのみならず、世界中のファンが心待ちにしているに違いない。

昨年大みそかの井岡vs福永亮次(写真:ボクシング・ビート)
昨年大みそかの井岡vs福永亮次(写真:ボクシング・ビート)

 なぜ今回、カーンvsブルックが人気を呼んだかというと「ファンが待たされた時間が長かった」という単純な理由。あの7年前の世紀の一戦、フロイド・メイウェザーvsパッキアオの状況に通じるものが感じられる。

 とはいえ日本ではカーンとブルックが長期間にわたり舌戦を交えながら対決にこぎ着けたような“演出”は不要だろう。そんな手段に頼らなくても2人は実力という絶対的なセールスポイントを持っているのだから。

 注目されるウエート設定は数年後と仮定してスーパーバンタム級ぐらいに落ち着くのではないか?井上はともかく、井岡は適正階級ではないかもしれない。それでも肉体改造を図った井岡が井上の対立コーナーに立つ姿は全く想像できないことではない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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