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母乳や便に含まれる短鎖脂肪酸の量が、子供のアトピー性皮膚炎や喘息のリスクと関連

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

みなさんは、「短鎖脂肪酸」という言葉を聞いたことがありますか?腸内細菌が食物繊維を発酵させることで作り出されるこの物質が、アレルギー疾患の予防に役立つ可能性があると、近年注目を集めているのです。

今回は、短鎖脂肪酸とアレルギーの関係について、最新の研究をもとにわかりやすく解説していきます。

【短鎖脂肪酸とは?酢酸、プロピオン酸、酪酸の働き】

短鎖脂肪酸は、炭素数が6個以下の脂肪酸の総称で、主に酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種類が知られています。これらは腸内細菌が食物繊維を発酵させることで生成され、大腸の健康維持に重要な役割を果たしています。

特に酪酸は、大腸の粘膜を保護し、炎症を抑える働きがあるとされ、炎症性腸疾患の治療に用いられることもあります。また、酪酸とプロピオン酸は、免疫細胞の一種である制御性T細胞の分化を促進し、過剰な免疫反応を抑えることが動物実験で示されています。

一方、酢酸は血中に最も多く存在する短鎖脂肪酸で、母体の血液を通じて胎児にも影響を及ぼすことが報告されています。

【母乳や便中の短鎖脂肪酸が、子供のアレルギーリスクと関連】

では、短鎖脂肪酸とアレルギー疾患の関係について、具体的にはどのようなことがわかっているのでしょうか。

アトピー性皮膚炎や喘息を対象とした研究では、早期の母乳や便中の短鎖脂肪酸濃度が低い児ほど、その後のアレルギー発症リスクが高まる傾向がみられました。特に、生後6ヶ月までの酪酸濃度の低さが、アトピー性皮膚炎との関連が強いようです。今のところ相関関係は示唆されていますが、短鎖脂肪酸が直接アレルギーを予防する効果を証明するには、さらなる研究の蓄積が必要だと考えられます。

また、食物アレルギーを既に発症している子供では、便中の酢酸、プロピオン酸、酪酸の濃度が低下していたとの報告もあります。ただ、アレルギー性鼻炎については、短鎖脂肪酸との明確な関連は見出せていないようです。

【短鎖脂肪酸を増やす方法は?今後の展望】

短鎖脂肪酸は主に食物繊維から作られるため、食物繊維の摂取量を増やすことが短鎖脂肪酸を増やすための基本となります。具体的には、野菜、果物、穀物などを積極的に取り入れることが大切です。

また、プロバイオティクスと呼ばれる善玉菌を含むヨーグルトや乳酸菌飲料を活用するのも一つの方法でしょう。ただし、短鎖脂肪酸の腸内濃度は、腸管の通過時間や環境なども影響するため、一概に食物繊維を摂取すればいいわけではありません。

今のところ、短鎖脂肪酸そのものをサプリメントとして利用するのは一般的ではありませんが、動物実験レベルでは、酪酸の経口投与がアトピー性皮膚炎の症状を改善したとの報告もあり、将来的な応用が期待されるところです。

アレルギー疾患の発症には、遺伝的要因や環境要因など複雑な背景があるため、短鎖脂肪酸がアレルギーを予防する特効薬とはいえません。しかし、腸内環境を整えることの重要性が再認識される中、その代表的な物質である短鎖脂肪酸への関心は高まるばかりです。母子の腸内フローラを育む観点からも、妊娠中や授乳期の食事は見直してみる価値があるかもしれません。

<参考文献>

・Roduit C, et al. High levels of butyrate and propionate in early life are associated with protection against atopy. Allergy. 2019;74(4):799-809.

・Wang LC, et al. Lower caprylate and acetate levels in the breast milk is associated with atopic dermatitis in infancy. Pediatr Allergy Immunol. 2022;33(2):e13744.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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