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メラノーマ上皮内癌と診断されたら?患者の不安やストレスに着目した世界の研究動向

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【メラノーマ上皮内癌と診断された患者の心理的ウェルビーイング】

メラノーマ上皮内癌(MIS)は、メラノーマの初期段階であり、がん細胞が表皮内に留まっている状態を指します。MISは予後が良好ですが、患者さんは「がん」と診断されたことで不安を感じるかもしれません。

最近の研究によると、MIS患者の63-67%に再発への恐怖(FCR)がみられ、臨床的な介入が必要とされています[1]。別の研究では、MIS患者の27%にメラノーマ関連の心配が報告されています[2]。一方で、MIS患者と進行期メラノーマ患者の間で、心理的ウェルビーイングに有意な差はみられないという報告もあります[1][2]。

MIS患者の心理的ウェルビーイングについてのエビデンスはまだ限られており、さらなる研究が求められます。MIS患者の心理面にも十分に気を配り、必要に応じて専門家と連携しながらサポートしていくことが大切だと考えます。

【心理的ウェルビーイングに影響する要因】

メラノーマ患者の心理的ウェルビーイングに影響する要因として、性別、年齢、パートナーの有無、就労状況などが報告されています。女性[3-6]、若年者(60歳未満)[4-6]、パートナーがいる人[3][4]、現在働いていないまたは退職した人[7][8]は、メラノーマ診断後の不安が高くなる傾向にあります。

また、メラノーマに関する知識不足、直近5年間で3回以上のネガティブなライフイベントを経験した人、医療チームからのサポートが乏しいと感じている人、日光の当たりにくい部位にメラノーマができた人は、心配を抱えやすいようです[8]。

【心理的ウェルビーイングの評価尺度と介入プログラム】

メラノーマ患者の心理的ウェルビーイングを評価する尺度はさまざまありますが、最もよく使われているのはFear of Cancer Recurrence Inventory(FCRI)です[9]。FCRIは43項目からなり、7つのドメイン(きっかけ、重症度、心理的苦痛、機能障害、洞察、保証、対処戦略)を評価します。

MIS患者に特化した心理社会的介入プログラムはほとんどありませんが、ステージ0-IIのメラノーマ患者を対象とした無作為化比較試験が1件報告されています[10]。この介入プログラムは、心理教育的リソースと3回の電話によるカウンセリングを組み合わせたもので、FCRとストレスの軽減、メラノーマ関連知識の向上に効果が示されました。ただし、不安、抑うつ、QOLの改善効果は明らかではありませんでした。

MIS患者の心理的ウェルビーイングについての研究は不足しており、この集団に特化した心理社会的介入プログラムの開発が求められます。今後の研究では、混合研究法(量的研究と質的研究の組み合わせ)を用いて、MIS患者の独自のニーズを明らかにしていく必要があるでしょう。

皮膚がんの中でも、メラノーマは早期発見・早期治療が特に重要です。MISの段階で適切な治療を受けることで予後は良好ですが、患者さんの中にはがんの再発や進行への不安を抱える方もいます。MIS患者さんの心理面のケアにも力を注ぎ、必要に応じて心理の専門家と連携しながら、トータルな医療を提供していきたいと思います。

参考文献:

[1] Bell KJL, et al. Psychooncology. 2016;26(12):1784-1791.

[2] Rogers Z, et al. Melanoma Res. 2016;26(5):497-504.

[3] Krajewski C, et al. J Psychosoc Oncol. 2018;36(6):734-753.

[4] Livingstone E, et al. Eur J Cancer. 2015;51(5):653-667.

[5] Schlesinger-Raab A, et al. Ann Oncol. 2010;21(12):2428-2435.

[6] Schubert-Fritschle G, et al. Int J Dermatol. 2013;52(6):693-704.

[7] Loquai C, et al. PLoS One. 2013;8(6):e66800.

[8] Rogers Z, et al. Melanoma Res. 2016;26(5):497-504.

[9] Zheng L, et al. Melanoma Res. 2024; Epub ahead of print.

[10] Dieng M, et al. J Clin Oncol. 2016;34(36):4405-4414.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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