「彼は働き者だった」10年植物状態の女性患者を妊娠させた犯人の表と裏の顔、介護施設の闇
重度障害者の介護施設に、10年以上植物状態(Vegetative State)で入院している女性患者が、ある日突然、うめき声を上げた。その女性は意識がないにもかかわらず妊娠しており、そのまま出産ーー。
全米中を震撼させた衝撃的な事件が起こったのは、昨年12月。米アリゾナ州フェニックスの介護施設「ハシエンダ・ヘルスケア」でのことだ。
DNAテストの結果、女性入所者に性的暴行を加えた疑いで1月23日、同介護施設で働いている准看護師、ネイサン・サザーランド(Nathan Sutherland)容疑者(36)が逮捕された。
被害者は、アメリカ先住民族(サン・カルロス・アパッチ族)の29歳の女性。BBCニュースによると、女性は幼少期に起こった発作が原因で重度の知的障害を患い、この10年間意識不明のままで、呼吸用と栄養用のチューブがつけられている状態だった。
出産の37週間前に行った健康診断では、容態の変化は確認されておらず、被害女性が出産の痛みでうめき声を上げるまで、介護職員らは女性の妊娠に気づかなかったと話している。
生まれてきたのは男の子の赤ちゃんで、健康状態は良好だとされ、被害女性の家族が育てている。また女性の容態は出産前の状態のままで、特に変化は見られないという。
「彼はとても働き者だった」
元同僚の証言
この介護施設で容疑者と以前一緒に働いていた元同僚、シンシア・ジョーンズさんは、地元メディア「az family」の取材に対して、「犯人が彼だなんて、とても信じられない」と語った。
ジョーンズさんによると、「犯人逮捕の写真を見て、以前の彼とまったく見た目が違うことにびっくりしました。以前はヒゲも髪もいつもこぎれいにしていたのに...」と、戸惑いの表情を見せた。
容疑者の現在の風貌と、「こぎれいにしていた」以前の風貌の比較は、azfamily.comに掲載されたニュース映像の01:00ごろに確認できる。
容疑者と妻は昨年12月5日、アメリカの長くなる離婚調停で最初の申し立てをしている。容疑者の激変した風貌は、家庭崩壊が一因なのか?
また、ジョーンズさんは容疑者について振り返り、「彼は働き者で、プロフェッショナルな姿勢をいつも見せていた」と話した。
ジョーンズさんは在職中、業務により病室間を行き来し、被害女性の部屋を離れることもあった。「その間(容疑者が)1人で病室に残ることもあった」と証言。地元メディアのインタビュアーが、「勤務中にこのような罪を犯す十分な時間は、容疑者にあったと思いますか?」と質問すると、ジョーンズさんは「ええ...はい」と答えた。
昨年、同介護施設が従業員に提出させた目標シートで、容疑者は女性暴行から4ヵ月後にあたる7月の時点で「もっとアリゾナ州の関連理事会に出席したい。リーダーシップを学ぶためのクラスを今後も取り続けたい」などと、抱負を語っていた。
容疑者は逮捕により介護施設から解雇されたが、先週日曜日まで勤務にあたっていたという。事件発生以降「大切な家族をここには預けられない」と、退去の申し入れが患者の家族らから出ている。
家族はどのように、声なき苦痛を見抜けるだろうか? 抵抗することも、家族や身内に訴えることもできない重度の障害者を預かっている介護施設では、今後対応が迫られそうだ。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止