インフルエンザ治療薬は「特効薬」なのか? 現時点の治療薬まとめ
新型コロナとインフルエンザの同時流行が懸念されています。インフルエンザ治療薬は昔よりも種類が増えており、日本では諸外国よりも処方されやすい環境が整っています。インフルエンザの治療や予防投与について、現時点で分かっていることをまとめたいと思います。
インフルエンザ治療薬の有効性
インフルエンザにかかった場合、安静にして休養を取ることが一番重要で、インフルエンザ治療薬を服用すべきかどうかはケースバイケースです。
健康な若い成人がインフルエンザになった場合、インフルエンザ治療薬は症状を短縮させる効果がありますが、重症化までは予防できないとされています(1)。
効果のイメージとしては、「発症して48時間以内にインフルエンザ治療薬を使うと、症状消失が1日程度早くなる」といったところです。本来回復までに4、5日かかるところを「1日前倒しできるなら飲みたい」と思うかどうかがポイントになります(2)(図1)。「特効薬」と呼ぶにはちょっとパンチが弱い気がしますね。
高齢者、妊婦、基礎疾患を有する人など、リスクが高い人は服用してもよいと考えられます(3,4)(表1)。子どもの場合、全例使用すべきとは言えませんが、5歳未満の幼児や呼吸器症状が強い場合は投与が推奨されています(4,5)。
インフルエンザ治療薬の種類
インフルエンザ治療薬は表2のようになります。発症後48時間以内に服用を開始することで効果が得られますが、この時間を超えていても重症化リスクが高いと判断すれば処方します。
オセルタミビル(タミフル)は最も使用されているインフルエンザ治療薬で、私もこれを第一選択として処方しています。子どもと成人のいずれに対しても効果が認められています(5,6)。吸入ができない子どもではこれがよく使用されます。過去に異常行動が話題になりましたが、現時点では薬剤との因果関係はないと判断されています。
ザナミビル(リレンザ)は、吸入治療薬です。B型インフルエンザに効果が高いとする報告があります(7)。ただし、呼吸器の病気、特に喘息を持っている人では気道が刺激されることで咳が出やすくなるかもしれません。
ラニナミビル(イナビル)は、1回で完結できるありがたい吸入治療薬ですが、国際的な評価はまだ定まっていません(3)。これも、喘息の患者さんなどでは気道が刺激されるリスクがあります。
バロキサビル(ゾフルーザ)に関しては、イナビルと同じく国際的な評価がまだ定まっておらず、現時点ですすめられるかどうか言及が難しいです(3,4)。
ペラミビル(ラピアクタ)は、点滴の抗ウイルス薬です。入院が必要なインフルエンザ例に対して用いられます。
新型コロナで注目されたファビピラビル(アビガン)も、形式的にはインフルエンザ治療薬に入りますが、市場流通しておらず、現場で使われることはありません。
医師の判断により抗ウイルス薬の投与を行わない場合でも、症状が悪くなった場合はすぐに受診するよう啓発することが必要です。
抗ウイルス薬の予防投与
さて、タミフルなどの一部のインフルエンザ治療薬は、発症しないよう「予防投与」することが可能です。表2のように、予防投与期間は治療期間よりも長く設定されています。
予防投与は以下のタイミングがすすめられます(図3)。ただし、健康保険は適用されず、自費診療となります。乳幼児医療費助成制度等も使用できないのでご注意ください。
インフルエンザ治療薬の備蓄
今シーズン(2022年10月~2023年3月)の供給予定量(2022年8月末日時点)は、約2,238万人分とされています(8)。
- タミフル(オセルタミビル 中外製薬) 約462万人分
- オセルタミビル(オセルタミビル 沢井製薬) 約240万人分
- リレンザ(ザナミビル グラクソ・スミスクライン) 約215万人分
- イナビル(ラニナミビル 第一三共) 約1,157万人分
- ゾフルーザ(バロキサビル 塩野義製薬) 約137万人分
- ラピアクタ(ペラミビル 塩野義製薬) 約28万人分
ちなみに、昨シーズン(2021年10月~2022年3月)の供給量はわずか約3万人分だったので、潤沢に準備されている印象です。
まとめ
インフルエンザ治療薬は、現在5種類使用できます。日本は備蓄量も多く、諸外国よりも処方されやすい環境が整っています。
同時流行時は、オンライン診療や電話診療によって、新型コロナが陰性の患者さんにインフルエンザ治療薬を処方することが可能です(9)。
しかし、適切な診断がなされないまま、インフルエンザではないのにインフルエンザ治療薬が処方される事例が多くならないようにしたいものです。
(参考資料)
(1) Jefferson T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014; (4): CD008965.
(2) Dobson J, et al. Lancet. 2015; 385: 1729-37.
(3) 日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」(URL:https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=37)
(4) この冬のCOVID-19とインフルエンザ同時流行の際の注意点(URL:https://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=51)
(5) 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2022/23 シーズンのインフルエンザ治療・予防指針(URL:http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20220926-1flu.pdf)
(6) Doll MK, et al. J Antimicrob Chemother. 2017; 72: 2990-3007.
(7) Kawai N, et al. J Infect 2008; 56: 51-7.
(8) 令和4年度 今冬のインフルエンザ総合対策について. (URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/index2022.html)
(9) 検査なし・オンライン診療でインフルエンザの遠隔診断が可能に 同時流行時の注意点(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20221014-00319383)