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3連勝もリオ五輪は大丈夫か。手倉森ジャパンの大問題

杉山茂樹スポーツライター

リオデジャネイロ五輪1次予選を兼ねるU−23アジア選手権予選を3連勝で突破したU−22日本代表。ベトナム(2−0)、マレーシア(1−0)を相手に、苦戦した理由は何か。

選手の力量不足もその原因のひとつだ。しかし、メンバーはこの世代の日本を代表する選手たちだ。嘆いてばかりいるわけにいかない。現実を認める勇気も必要になる。またメンバーの中には、評論の対象にすることがためらわれるトッププロではない選手も含まれている。五輪チームには、批判の矛先を選手に向けることができにくい性質がある。

しかし監督は別だ。五輪チームだからといって遠慮する必要はない。手倉森誠監督の采配、サッカーゲームの戦い方は、ハリルホジッチと同レベルで語られていいモノだ。

監督のレベルと選手のレベル。監督のレベルが選手のレベルを超えていないと、チームは進化していかない。選手のサッカー偏差値が55なら、監督の偏差値が60以上でないと、両者は理想的な関係にあるとは言えない。チームは前進していかないのだ。

五輪チームの選手たちと手倉森監督の関係はどうだろうか。せいぜい互角だと思う。残念ながら、手倉森監督の方が上には見えてこない。何よりサッカーがよくない。過去に逆戻りしたようなサッカー。それはジーコジャパンのサッカーによく似ている。

どこがよくないサッカーなのかと言えば、ボールの奪われ方になる。真ん中で頻繁に奪われるので、日本選手はそのたびに意外なタイミングで背後を突かれる。相手は瞬間、身体を入れ違えるように前進していく。日本選手の真後ろを、反動を利用しながら突き進む。逆モーションで、だ。

シマッタ。ヤバイ。マズイ。日本選手の焦る様子が、手に取るように伝わってくる。一瞬、パニックに襲われることになる。ベトナム、マレーシアという弱者に対して、失点を招きやすい状況になる。相手のレベルが上がれば、その危険はさらに高まる。

サイドを使え、とはよく言われるが、それは「ボールを奪われるならサイドで」という意味でもある。真ん中とサイド。奪われる場所が同じ高さなら、サイドの方が何倍もいい。真ん中より自軍ゴール前までの距離は遠い。身体の真後ろを、反動を利用するように、突かれる心配は減る。

手倉森ジャパンは、そこのところの追求が思い切り甘い。奪われてはいけない場所で、本当に平気でボールを失う。それではダメだと、監督から指示が送られている様子もない。そこに問題意識を抱いているようにさえ見えないのだ。

採用する布陣は4−2−3−1ながら、その3の両サイドが布陣通り、外に開いて構えている時間はごくわずか。実際の布陣は、ジーコジャパン、あるいはその昔の加茂ジャパンが使った中盤ボックス型4−4−2。4分割表記にすると4−2−2−2と変わりないものになる。逆Tの字。中央せり出し型。俯瞰で眺めると、そんな感じにも捉えることができる。

この4−2−2−2の非現代性は、それだけには留まらない。ピッチ上に対角線が描けないので、サイドチェンジを行なえない。ピッチを広く使えないといった問題も抱えている。

プレスもかかりにくい。相手ボールに転じた時、ピッチに網がかかった状態を演出しにくいのだ。とりわけサイドで数的不利を招くので、相手のサイド攻撃を浴びやすい状況にもなる。

この4−2−2−2を用いながら「プレス!」と叫んでいたのは、20年前の加茂周さんだが、プレスに適さない布陣でプレスをかけに行くと、エネルギー効率が低下。試合後半になると選手の足は止まる。

というわけで、このサッカーは、すでに時代から遅れたものとして捉えられている。日本でも数年前に絶滅したと僕は思っていた。

それを主戦術に採用する手倉森監督。時代遅れ感満載の、まさに旧バージョンのサッカーでリオを目指そうとする姿には、驚きを禁じ得ない。

今すぐ中止した方がいい。監督を直ちに代えた方がいい。問題を抱えているのは、選手よりも監督。かなりの確信を持って僕はそう言いたくなる。

申し訳ないが、世界と向き合う上で、これはかなり初歩的なミスである。ハリルジャパンへの関心が高まる中、こちらは誰からも注意されず、野放しにされたような状態にある。しかも五輪本大会出場の門はW杯本大会出場の門より遙かに狭い。アジアに与えられたW杯本大会の出場枠は現状4.5。これに対して五輪はたったの3。遙かに狭き門だ。

手倉森さんでは難しい。本来50%ぐらいある出場の確率が、それこそ半減してしまいそうである。

A代表の監督を外国人が務めることはもはや常識になっているが、五輪チームの監督は日本人が慣例だ。しかし、監督の手腕が直結するのはむしろこちら。五輪に力を入れるならこちらも外国人監督にすべきなのだ。

リオの次に控えるのは2020年東京だ。日本サッカー界はこれとどう向き合うつもりなのか、いますぐにでもハッキリさせた方がいい。東京五輪にどれほど力を入れようとしているのか。他競技と同じように前向きに臨むなら、それに向けた取り組み、特別プロジェクトのようなものを編成すべきである。A代表と同じくらいの、いや、決して高くない選手の質を考えればそれ以上の強化方針で臨むべきではないか。

五輪チームにも優秀な監督は不可欠。真ん中に突っ込んでいき、あっさり奪われ、逆襲を許す愚行を見せられると、その思いは確信に近づくのだ。

(集英社・Web Sportiva 4月2日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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