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徴兵制の復活相次ぐ「安全のタダ乗り許されない」フランスは1カ月 安倍首相の憲法改正で徴兵制は?

木村正人在英国際ジャーナリスト
2017年仏革命記念日 軍事パレード(写真:ロイター/アフロ)

「フランス軍の弱体化防ぐ」

[ロンドン発]スウェーデンに続いて、フランスも――。冷戦終結後、徴兵制が相次いで廃止された欧州で徴兵制を再び採用する国が目立ち始めました。

背景には、2014年のクリミア併合でロシアの領土的野心があからさまになる一方で、頼みのドナルド・トランプ米大統領からは北大西洋条約機構(NATO)への「公平な負担」を迫られていることがあります。

ナポレオン1世にたとえられることが多いフランスのエマニュエル・マクロン大統領は19日、フランス南東部トゥーロンの海軍基地で「わがフランス軍が弱体化していくのに歯止めをかける」と宣言しました。

「我々は大いなる困難の時代に直面している。グローバル化に伴って、フランスの国益は我々の領土に限定されなくなった。時に我々の領土を守ることは数千キロメートル離れたテロリストと戦うことを含む」

マクロン大統領は国防費を18億ユーロ増やして342億ユーロにする方針を表明。そのうち海外展開の予算を2020年までに4億5,000万ユーロから倍以上の11億ユーロに増やすと宣言しました。

2001年に廃止された徴兵制(ナショナル・サービス)を大統領選での公約通り、18歳から21歳の若者(約60万人)を対象に1カ月に限って復活させることにも言及しました。

フランスは欧州連合(EU)から財政再建を迫られており、マクロン大統領は当初、国防費を削減する考えでした。これに抗議して昨年7月、ピエール・ド・ヴィリエ統合参謀総長が辞任する騒動に発展しました。

テロが相次いだフランスではナショナル・サービスの復活を求める世論が強まっていました。1カ月だけ徴兵制を復活しても、あまり軍事的な意義はありません。が、テロ対策の意識を高める効果は十分に期待できます。

「強いフランス、強い欧州」を目指すマクロン大統領にとってはフランスの若者に自覚を促し、共和国の価値を共有する精神的な意味の方が大きいのでしょう。

ロシアの脅威

ソ連崩壊後、NATOは東方拡大を続け、民主化したロシアもいずれはNATO加盟国になると思い込んでいました。ロンドンにある国際戦略研究所(IISS)によると、欧州主要国は1990年からの25年間に軍事力を大幅に減らしています。

西ドイツ(現ドイツ)は215大隊から34大隊に、イタリアは135大隊から44大隊に、フランスは106大隊から43大隊に、イギリスは94大隊から50大隊に縮小しました。

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NATO(加盟29カ国)は国内総生産(GDP)の2%を国防費に充てる目標を掲げていますが、クリアしたのはアメリカ3.58%、ギリシャ2.32%、エストニア2.14%、イギリス2.14%、ルーマニア2.02%、ポーランド2.01%の6カ国だけです。

イギリスが抜けたあとEUの2本柱になるフランスは1.79%、ドイツは1.22%です。「NATOは時代遅れ」などというトランプ大統領の言い方には問題がありますが、NATO欧州加盟国に対する国防費増強はずっとアメリカが求めてきたことなのです。

EUは昨年12月の首脳会議で、NATOを補完するかたちで軍事分野の連携を深める「常設軍事協力枠組み」(PESCO)をスタートさせています。それでは、ロシアの脅威にさらされている国々の状況を見ておきましょう。

【スウェーデン】

中立政策を採る北欧の大国スウェーデンはロシアを刺激するのを怖れてNATOには加盟していません。冷戦終結後、NATOの活動に参加するようになり、2010年に徴兵制を中止しました。

しかしクリミア併合でNATO加盟論議が再燃。今後5年間で国防費を17%増強する方針です。2018年1月から徴兵制を再開、1999年に生まれた1万3,000人の中から4,000人の男女が徴兵義務に就きます。

今春には、有事に備える非常事態対応マニュアルを全470万世帯に配るそうです。

【ノルウェー】

徴兵制あり。NATO加盟。北極圏で活動を活発化させるロシアの動きを警戒。

【フィンランド】

徴兵制あり。ロシアを刺激しないようにNATOには加盟していません。兵力を23万人から28万人に増やす方針。

【リトアニア】

バルト三国のリトアニアは2015年に徴兵制を7年ぶりに復活させ、ロシア軍の侵攻に備えてパルチザンの結成方法を国民に伝授するリーフレットをすでに配布しています。

ロシア軍とリトアニア軍の見分け方、ロシア製の装甲車、戦車、自動小銃、手榴弾、地雷を写真付きで詳しく説明。家族を安全な場所に避難させたらSNSを通じてパルチザンを組織するよう呼びかけています。

ユオザス・オレカス国防相(当時)は筆者の取材に「プーチン大統領がどんな手を打ってくるか分からないが、1センチたりともわが領土には入らせない。NATOやアメリカとの協力を強化したい」と話しました。

【エストニア】

徴兵制あり。2007年にタリン市中心部に建てられたソ連兵士像の移転をめぐるロシア系住民の抗議行動に合わせて大規模なサイバー攻撃に見舞われる。これを機にNATOとともにサイバー対策を強化。

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【ポーランド】

2009年に徴兵制中止。大国外交に翻弄されてきたポーランドでは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がモスクワに行ったり、プーチン大統領がベルリンを訪れたりしている間、ポーランド人は眠れないというジョークがあるそうです。

アメリカ軍は昨年9月、ロシア軍の大規模演習に対抗して戦車87両、戦闘車103両、自走榴弾砲18門をポーランドに展開しました。

NATOはバルト三国とポーランドに4,500人の多国籍大隊を展開することを決め、NATO軍の常駐態勢を整えました。後ろには1万3,000人から4万人に増強したNATO即応部隊が控え、このうち5,000人は48時間以内に展開可能です。

徴兵制のない日本

自民党の憲法改正草案は、現行憲法18条の「奴隷的拘束も受けない」を「社会的又は経済的関係において身体を拘束されない」に改めました。奴隷という文言が日本の歴史にはなじまないからというのが理由です。

内閣法制局解釈では徴兵制は認められていません。徴兵制が現行憲法18条の「その意に反する苦役」に当たると解釈されているためで、自民党の憲法改正草案でもその文言は残されました。自民党は「徴兵制を採る考えはありません」と明言しています。

先の大戦では「一銭五厘」の赤紙(召集令状)で戦地に送られた大量の若者が命を落としたことから、戦後日本には徴兵制に対する強い不信感が残りました。

軍事的にアメリカやイギリス、日本のような「海洋国家」は海軍が中心となり操船に特別な知識と技術が求められるため志願制を採用する例が多く、陸上侵攻に備えて国境を守らなければならない「大陸国家」は陸軍が主となり徴兵制を採る傾向が強いと言われます。

北朝鮮の核ミサイルがいつ飛んできてもおかしくない時代、軍事の素人をいくら集めたところで弾道ミサイルには太刀打ちできません。より洗練された高度なプロ集団が必要とされているのです。

聖路加国際病院理事長だった故・日野原重明さんは生前、衆院憲法調査会公聴会でこう語ったことがあります。

「徴兵制が日本にない代わりに、大学を卒業した人は、難民の世話をするとか、土地をつくるのに川の洪水をとめるというふうに半年か1年いろいろなところに行ってみてから自分の専門に入れば本当の人間ができる」

災害や有事に備えて自発的に人命救助や非常事態対応の訓練を積んだり、ボランティアを経験したりするのを認めるというのは日本の社会にとっても、国民1人ひとりにとっても決してマイナスではないような気がします。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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