TikTokで旋風起こすカマラ・ハリス米副大統領はサラダ話法の「ガキ」仲間
■大統領選のカギはSNSとZ世代
[ロンドン発]11月の米大統領選で民主党の候補指名が固まったカマラ・ハリス副大統領(59)は、返り咲きを目指す共和党候補ドナルド・トランプ前大統領(78)に勝てるのか。カギを握るのは動画に特化したSNS「TikTok」とデジタル・ネイティブのZ世代だ。
1990年代半ばから2010年代初めに生まれたZ世代はデジタル・SNSネイティブとされる。仲間意識が強く、仕事よりプライベートを優先、ダイバーシティが当たり前でタイムパフォーマンスを重視する。Z世代(18~27歳)の有権者は約4100万人で、米国の有権者の5分の1近くを占める。
22年の中間選挙以降に投票年齢に達した若者は約830万人。Z世代の有権者は政治的・社会的問題への関与を強めており、45%近くが非白人。気候変動、人種的公正、銃犯罪の撲滅、インフレや生活賃金に焦点を当てる。
■オンライン・コンテンツの爆発的増加
Z世代の投票は前回大統領選の激戦州の行方を左右したが、今回はそれを上回る可能性がある。デジタルやSNSを通じたアクティビズムはZ世代の政治的動員において重要な役割を果たす。情報を迅速に拡散し、組織化するのに役立つ。
トランプ氏は旧ツイッターをフル活用したが、Z世代は動画のTikTokが主戦場。多様性に富んだZ世代は白人高齢候補より比較的若くてアフリカ・インド系のハリス氏に親近感を覚える。
英紙フィナンシャル・タイムズ(7月25日)は「ハリス副大統領の選挙キャンペーンはオンライン・コンテンツの爆発的な増加で幕を開ける。ハリス氏のミーム(ネット上でコンテンツが急激に増幅していく現象)がZ世代の有権者の共感を呼ぶ」と特集を組んでいる。
ハリス氏が傘を差しながら、キラキラのLGBTプライド・ジャケットを着た小学生たちと通りを飛び跳ねる非公式動画がTikTokで話題になっている。次にトランプ氏と、児童への性的暴行に問われ、勾留中に自殺した米実業家ジェフリー・エプスタイン氏の映像が現れる。
■「あなたはココナッツの木から落ちただけだと思いますか?」
TikTokやX(旧ツイッター)でZ世代が投稿した豪快に笑うハリス氏のミームが爆発的に拡散している。民主党の戦略家は「このポジティブなミームは若者主導の党への新しい熱狂の波の一部だ。81歳のジョー・バイデン大統領ができなかったものだ」と同紙に分析している。
ミームのいくつかはハリス氏を 「brat(ガキ)」と親しみを込めて呼ぶ。大雑把でパーティー好き、ときどき間の抜けたことを言う女の子という意味だ。「サラダ話法」と揶揄されるハリス氏の無秩序なスピーチパターンが今、Z世代の共感を集めている。
例えば「あなたはココナッツの木から落ちただけだと思いますか?」というフレーズだ。次の「あなたはあなたが生きているすべての文脈の中に存在する」という意義付けは無視して「ココナッツの木から落ちた」という発言を切り取って面白おかしく拡散させるのだ。
■TikTokで#kamalaharrisの投稿が455%も増加
Z世代のハリス・サポーターはテイラー・スウィフト、ビヨンセ、チャペル・ローンら多くのポップ・アーティストをハリス氏と組み合わせる。チャーリ・XCX自身も今年発表したアルバム「Brat」にちなんで「Kamala IS brat 」と投稿した。
この1カ月、TikTokで「#kamalaharris」の投稿が455%も激増。バイデン氏が大統領選から撤退し、ハリス氏を支持すると発表してから48時間で3万8500人の新規有権者が登録した。このうち83%が18~34歳だった。バイデン氏撤退後、ハリス氏への献金は1億ドルを突破した。
21年に個人投資家たちがネット上で世界最大のコンピュータゲーム小売店「ゲームストップ」を買い進めて株価を190倍につり上げ、空売りを仕掛けていた多くのヘッジファンドに大打撃を与えた騒ぎを思い出す。
ロイター通信と世論調査会社Ipsosの世論調査では早くもハリス氏が44%対42%でトランプ氏をリードする。ミーム株の暴騰と同じように、Z世代とTikTokはハリス氏を大統領に押し上げる可能性がある。