第2次補正予算と日本財政の姿 「上あご」が折れた「ワニの口」
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、先般(2020年5月27日)、政府は2020年度における第2次補正予算の閣議決定をした。今回の補正予算(一般会計)は約31.9兆円、事業規模は約117兆円である。国の一般会計における当初予算は約102.6兆円であったが、約25.5兆円の第1次補正予算と合わせ、歳出合計は約60兆円増の約160兆円となった。
これに対応する歳入は、税収等が約70兆円、公債金収入が約90兆円の合計160兆円だ。歳出のうち国債費が24兆円(利払い費が約10兆円、債務償還費が約14兆円)であるから、国の一般会計において、基礎的財政収支の赤字幅は約66兆円、財政赤字は約76兆円に拡大した。2020年1-3月期1次速報値では、2020年度の名目GDPの予測値は約552兆円であるので、2020年度の財政赤字(対GDP)は13.7%になる可能性があることを意味する。
この結果、国債発行計画における市中消化分は、第2次補正予算後において、128兆円(当初予算)から212兆円に、約90兆円も急増した。このような状況でも、国債発行の市中消化が可能なのは、第1次補正予算編成のとき、日銀が国債の買い入れをする「年間約80兆円」の保有残高増の目途を撤廃したからだが、この危機時の対応が永久に継続できるわけではない。
では、第1次補正や第2次補正は、日本財政にどのような影響を与えたのか。これを確認するためには、我が国の財政状況を示す、以下の図表が分かりやすい。この図表から一目瞭然だが、一言でいうならば、「ワニの上あごがロケット発射のように完全に折れた」状態になった。ワニの口とは、国の一般会計予算の動きで、歳出の推移をワニの「上あご」、税収の推移をワニの「下あご」と見立てると、ワニが口を開いたように見える姿をいう。歳出(上あご)と税収(下あご)のギャップである「ワニの口」の部分は国債発行で概ね賄っている。
国債発行は将来世代に負担を先送りする可能性があるため、財政再建を行い(歳出の伸びを抑制し、税収を増やしながら)、上あごと下あごを近づけ、開いたワニの口を閉じていく努力が必要である。このため、政府は、2008年の「社会保障国民会議」での議論を皮切りに、2019年10月の消費税率10%引き上げを含め、社会保障・税の一体改革を徐々に進め、ワニの口を少し閉じようとしていたところ、今回(新型コロナウイルス感染拡大)の問題が財政も直撃した。また、景気循環や納税猶予に伴う税収減により、下あごも下方リスクがあり、財政赤字はさらに拡大する可能性もある。
もっとも、いまは危機的な企業の資金繰りや家計支援のため、迅速かつ大規模な対策が必要なのは明らかだ。これはBarro(1979)の「課税平準化の理論」に従うものだが、政府は危機時での保険的な機能(=コストの時間分散機能)も持ち、民間では負担できないコストを均すことができるのは政府しかいない。
しかしながら、この問題が終息して経済活動が正常化した段階で、将来世代に負担を先送りすることのないよう、できる限り早く、国債発行で賄った財源を長期間(例:10年間や20年間)かつ税率の低い追加課税で償還する手段も同時に仕組むことが考えられるが、今回の対策で、そのような検討が皆無なのはなぜか。消費税1%増なら約25年の返済になるが、拙著『日本経済の再構築』(日本経済新聞出版社)でも指摘したとおり、日本経済が抱える問題は「人口減少」「低成長」「貧困化」であるから、税制改正も同時に行い、所得の高低などに応じて追加課税を講じれば、所得再分配的な効果も期待できる。
例えば、東日本大震災では、震災の復旧・復興財源を調達するため、政府は「復興債」という国債を発行しており、所得税の2.1%上乗せ(25年間)や個人住民税の年1000円上乗せ(10年間)等で財源を確保している。また、1923年9月の関東大震災後でも、復興債を発行している。財源確保を急ぐ必要はないが、新型コロナウイルスの感染拡大が終息した後の債務処理の方法についても議論を深め、必要な準備を進めておく必要があろう。