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基礎年金のカット率(刈り込み)は29.5%に拡大か:2024年・財政検証を読み解く

小黒一正法政大学経済学部教授
(写真:イメージマート)

インフレ率(消費者物価指数の伸び)が継続的に2%を超えるなか、今後の年金がどうなるか、国民やマスコミの関心も高まっていると思われる。このような状況のなか、厚労省は先般(2024年7月3日)、2024年の財政検証の結果を公表した。

財政検証は、経済成長率を含め、シナリオを決める全要素生産性の伸びや賃金上昇率などの前提を置き、年金財政の健康診断を行うものだが、今回の検証では、4つのケースを試算している。

具体的には、「高成長実現ケース」、「成長型経済移行・継続ケース」、「過去30年投影ケース」、「1人当たりゼロ成長ケース」の4つだ。前回は6ケースだったので、シナリオ(情報量)が2つ減少したことを意味する。

今回の4ケースのうち、3ケースは、内閣府が経済財政諮問会議で4月上旬に公表した財政の長期推計(中長期的に持続可能な経済社会の検討に向けて②)をベースとし、試算を行っている。残りの1ケースは、内閣府の長期推計のシナリオよりも、さらに低い成長率になった場合のシナリオを分析するものである。

では、今回の資料から何が読み解けるのか。まず、「高成長実現ケース」が想定する長期的な名目GDP成長率の平均は約3.6%(実質経済成長率1.6%)、「成長型経済移行・継続ケース」は約3.1%(実質経済成長率1.1%)、「過去30年投影ケース」は約0.7%(実質経済成長率▲0.1%)、「1人当たりゼロ成長ケース」は約▲0.3%(実質経済成長率▲0.7%)であることが確認できる。

この4ケースのうち、名目GDP成長率が3%を超える「高成長実現ケース」や「成長型経済移行・継続ケース」はやや楽観的であり、1995年度から2023年度まで、名目GDP成長率の平均は概ね0.5%なので、「過去30年投影ケース」で評価してみよう。

モデル世帯(専業主婦世帯)では、1階の基礎年金部分と2階の報酬比例部分の2つを受け取る高齢世帯を想定しており、2024年度の所得代替率61.2%の内訳は、基礎年金部分が36.2%、報酬比例部分が25%で、この両方の合計が61.2%になっている。

それが「過去30年投影ケース」では、2057年度以降で所得代替率が50.4%になり、その内訳は、基礎年金部分が25.5%、報酬比例部分が24.9%となっている。

これは、1階部分(基礎年金部分)の給付が約29.5%カット(=1-25.5÷36.2)される一方、2階部分(報酬比例部分)の給付が約0.4%カット(1-24.9÷25)されることを意味する。

前回の似たシナリオのケースⅢでは、1階部分(基礎年金部分)のカット率が約28%だったので、基礎年金の刈り込みが1.5%ポイント、より深くなったことを意味し、今後の低年金問題が一層深刻化する可能性を示唆するものと言えるかもしれない。

なお、基礎年金の拠出期間を現行の40年間(20~59歳)から45年間(20~64歳)に延長する制度改正を見送るとした政府方針は理解できる。NISAやiDeCo等の私的年金の拡充などで老後の資産形成を促す動きが加速するなか、幅広い年代から年金保険料を集めるのではなく、基礎年金のあり方も見直しながら、本当に困っている低年金の人々を別の公費で支援する仕組みづくりが必要ではないか。

法政大学経済学部教授

1974年東京生まれ。法政大学経済学部教授。97年4月大蔵省(現財務省)入省後、財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授等を経て2015年4月から現職。一橋大学博士(経済学)。専門は公共経済学。著書に『日本経済の再構築』(単著/日本経済新聞出版社)、『薬価の経済学』(共著/日本経済新聞出版社)など。

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