Yahoo!ニュース

柴崎岳をスペイン人記者が語る。彼に対する期待と今後の課題とは。

森田泰史スポーツライター
バルセロナ戦でボールキープを試みる柴崎(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

柴崎岳(ヘタフェ)は、実力でステップアップのチャンスを掴んだ。ただ、彼のリーガエスパニョーラ1部での挑戦は始まったばかりだ。

昨年1月の移籍市場で、ラス・パルマス加入が噂されていた柴崎だが、最終的に加入したのは2部のテネリフェだった。初の海外移籍で2部のクラブ行きを決断した彼に懐疑的な目を向ける者もいたが、まさに批判を結果で跳ね除け、わずか半年で1部への挑戦権を手にしたのである。

■利用価値の高い選手

1部昇格プレーオフ決勝で対戦したヘタフェが柴崎にオファーしたのは、何かの偶然だったのだろうか。スペイン紙『マルカ』のエミリオ・コントレラス記者は独自の目線で移籍の背景を語る。

「昨シーズン、ガクは利用価値の高い選手であることを証明した。テネリフェで最初は適応に苦しんだが、徐々に主役の座を勝ち取り、個人としては良い形でシーズンを終えた」

あのプレーオフで、ホセ・ボルダラス監督は結果的に何度も柴崎のプレーを目にすることになった。

「ボルダラスはテネリフェを研究するため、幾度となく彼らの試合をビデオで観たと思う。ボルダラスに限らず、あの頃のガクを見て、多くの人が彼を良い選手だと認めていたよ。ボールを扱う技術、正確なプレースキック...、非常に興味深い選手だったんだ」

昨年の4月、5月頃は現地でも柴崎の去就に大きな関心が寄せられた。柴崎とテネリフェの契約は2017年夏までとなっていたからだ。

「ガク自身、2部ではなく1部でプレーしたいと思っていただろう。さらにヘタフェにとっては、日本のマーケット開拓する機会でもあった」

■指揮官の本命は

だがボルダラス監督が補強においてプライオリティを置いていたのは、FWアマト・エヌディアイエのような選手だったという。

「実のところ、ボルダラスの提唱するスタイルを考えれば、アマト・エンディアイエのような選手の方が重宝する。スピードを備えた戦うタイプの選手だ」

アトレティコのカンテラーノであるアマトは昨季、レンタル先の2部テネリフェで柴崎と共にプレーした。公式戦41試合で13ゴールを挙げ、テネリフェの1部昇格プレーオフ進出に大きく貢献した。

ただ、前述したように、ボルダラス監督は対戦相手として柴崎を分析した際、彼に好印象を抱いていたはずだ。そして、ヘタフェというクラブにおいては、アンヘル・トーレス会長の発言権が時に補強に影響する。

「ヘタフェでは、アンヘル・トーレス会長の意見が重みを持つ。ヘタフェとテネリフェの試合を見て、会長はガクのことを気に入ったのだろう。財政面、選手の希望、ヘタフェの嗜好...そういった条件がすべて整い、移籍が成立したんだ」

「ガクはクラブ・ワールドカップでレアル・マドリー相手に2ゴールを決めただけの選手ではなかった、ということだ」

■乾と柴崎の類似点

柴崎の課題については、「ガクはだいたい1枚目の交代選手になる。あるいは、2枚目の交代選手だ。ボルダラスは彼にピッチ上での労働を要求しているからね。ガクを先発で起用して、彼が疲れてきたら、フレッシュな選手を投入する。それが現在のボルダラスのプランだろう」とエミリオ記者は指摘する。

その言葉で、乾貴士が辿った道を思い出した。メンディリバル監督は今季まで乾をほとんどフル出場させていなかった。

乾は昨季リーガで24試合に先発出場した。そのうち、フル出場したのは5試合。1枚目の交代選手になったのが5試合で、2枚目の交代選手になったのが9試合だった。

「日本人選手はフィジカル面で難がある。体格的にも細く小柄だ。だがガクはボルダラスのメッセージをしっかりと受け取っているように見える。ガクに求められるのは、チームがボールを保持できていない時に、守備面でハードワークをし、ボールを奪い、カウンターに繋げることだ」

「ヘタフェには、アンヘルをはじめ、スペースを突くのに長けた選手がいる。できる限り相手ゴールの近くでボールを奪い、彼らにラストパスを送れればいい。ガクはラストパスの精度が高い。だからボルダラスは彼を信頼している」

■求められる得点力

ヘタフェは今季、アンヘルが好調だ。第24節セルタ戦で今季3度目の1試合2得点を挙げ、すでにリーガで11得点を記録している。

その他の選手を見ると、ホルヘ・モリーナが5得点、マルケル・ベルガラが4得点、アマトが2得点、フアン・カラ(現河南建業)が2得点、ファイサル・ファジル、柴崎、フランシスコ・ポルティージョ、マウロ・アランバリ、アルバロ・ヒメネスが1得点で、アンヘルに頼る部分が大きい。

「私がガクの問題だと思うのは、彼のポジションからして、得点がないことだ。確かに、トップ下の主なミッションは、FWへのボール供給だ。だが1トップの後ろに位置して、なおかつゴールを奪えれば、監督にとってスタメンから外しにくい選手になれる」

「ゴールは1人の選手に依存させられない。それは昨シーズン、ポルティージョが直面した課題でもある。サイドでプレーしている時は良かったが、中央に配置された時にゴールを決められないと、それは問題になってしまう。そして、そのことはサイドアタッカーより、中央の選手にとって問題になる」

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

誰かに話したくなるサッカー戦術分析

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

リーガエスパニョーラは「戦術の宝庫」。ここだけ押さえておけば、大丈夫だと言えるほどに。戦術はサッカーにおいて一要素に過ぎないかもしれませんが、選手交代をきっかけに試合が大きく動くことや、監督の采配で劣勢だったチームが逆転することもあります。なぜそうなったのか。そのファクターを分析し、解説するというのが基本コンセプト。これを知れば、日本代表や応援しているチームのサッカー観戦が、100倍楽しくなります。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

森田泰史の最近の記事