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ノルウェー若者の「労働組合離れ」とサマーパトロール対策

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
北欧では若者のユニオン離れにどう取り組んでいるのか 写真:LO.no提供

日本と比べ、ノルウェーでは労働組合の影響力は大きい。ストライキで日常生活に影響が出ることもあるが、「黄色いジャケットを着てストライキをしている市民は権利のために闘っている」という理解が社会に浸透している。

そんな日本とノルウェーでも、形はある程度違えど、共通の問題が今起きている。「若者の労働組合離れ」だ。

「今の若い人は社会が前進し、福祉制度が整っていることを当然だと思い込み、以前に比べると政治にあまり関心がなく、労働組合への加入を促すことに課題があります」

そう話すのはノルウェー労働組合総同盟(LO)のLars Måseide さん(以下ラーシュさん、33歳)だ。

ラーシュさんは彼はLO学生部での経験もあり、若者の運動に詳しく、現在はLO広報部のアドバイザーとして働いている 筆者撮影
ラーシュさんは彼はLO学生部での経験もあり、若者の運動に詳しく、現在はLO広報部のアドバイザーとして働いている 筆者撮影

解決を模索する北欧モデルは組織化され、争いが少なめ

北欧では経営者側との協力体制を大切にして、ストライキや政治的対立が起こる前に協力する文化があるという。

「ノルウェーでは経営者連盟NHOと正式な会合を行い、対立が起きる前に解決を目指します。北欧では市民も雇用主もかなり組織されているので、争いは少ないほうです」

多くの重要な決定がなされてきたLOの会議室には歴史が詰まっている 筆者撮影
多くの重要な決定がなされてきたLOの会議室には歴史が詰まっている 筆者撮影

ノルウェーの若者は労働組合が何かピンときていない

「私たちは若い人たちを組合に加入させることにとても苦労しています。今はネットフリックスのようなのものと競合しています。『なぜ私の時間を労働組合に使うの?』『私に何の得があるの?』という感じです。なぜそれが重要なのかを説明しなければならないし、ジムの会員権のように、会員費を払えば好きなだけトレーニングできるというものでもない」

「私たちは社会正義であり、あなたの権利を守っているのです。もしあなたが職場で何か問題を抱えているなら、私たちはあなたを助けることができます」

対策として、LOは「楽しく」若者を取り込もうとしている。日本よりも北欧の学生期間は長いので、35歳未満ならLO学生部の会員になれる。

「LO学生部のプロジェクトのひとつを紹介しましょう。ノルウェーの各キャンパスには様々な学生団体があります。そこで私たちは学生活動に参加し、学生たちにおもしろい空間を作り、労働組合の政治にも焦点を当てています」

若者の雇用先に出向いて交流し、組合に取り込む活動「サマーパトロール」

写真:LO.no提供
写真:LO.no提供

学生の取り込みで大きな効果を成しているのが『サマーパトロール』(LOs sommerpatrulje)だ。

「1985年から続いているプロジェクトで、毎年夏になると、LOの若者たちがノルウェー全土を回り、若い人たちと話をするために職場に出向くというものです。労働法や労働協約に違反していないかどうかを調べるために、若者にインタビュー調査をします。毎年、5000人くらいの若者と話をするのですが、ノルウェーの人口が540万人と考えると、かなり多い数です」

「給料はいくらですか?残業はありますか?給料は?支払いは?ということを聞きます。また、労働組合について知っているか、組織化されているか、何か質問があるかなどの話もします。これはノルウェーのすべての郡で行っていることです。各地域に20~30人ほどのパトロール隊を編成し、車やバスで巡回させています。全国を車で回り、若い人たちに労働組合や労働法の重要性について話をするんです。職業訓練中の見習い労働者を対象としたものもあります」

見習い労働者と話を聞く時は、監視カメラなどの法律違反がないかも調査する。この2年間で、ノルウェーでは労働者が知らないうちに監視カメラが増加しているそうだ。

「セキュリティ上の理由で監視することはできますが、労働者が仕事をしているかどうかを監視することはできません。これは私たち組合が取り組むべきことです。政治的な面では、法律を改正したり、政治家と話したり、この問題を政治家に知らせたり、法律を改正しなければならないかもしれません。そうすることで、若い人たちや雇用者たちに対して、より強い関心を抱かせることができます。彼らはルールが何なのか知らないかもしれないですから。このように私たちは従業員組織と協力したり、従業員と直接話し合ったりして、法律がどういうものかを説明し、前向きな変化をもたらすように努めています」

ある年の夏では、サマーパトロールを行ったところ、4人に1人が適切な労働契約を結んでいないことが判明し、LOは雇用主と話をした。2023年の夏のサマーパトロールでは、若者が働く雇用先の半数で、契約書の紛失、休憩の不履行、時間外労働の規則違反、研修不足などの違反が見つかった。

雇用主側と築かれた信頼の伝統

ノルウェー社会で労働組合の影響力は非常に大きく、LOという文字をニュースで見ない日はない。オスロ中心部にある本部。赤いマークのLOは市民は誰でも目にしたことがある 筆者撮影
ノルウェー社会で労働組合の影響力は非常に大きく、LOという文字をニュースで見ない日はない。オスロ中心部にある本部。赤いマークのLOは市民は誰でも目にしたことがある 筆者撮影

LOは信頼を築くことにも重点を置いている。「信頼」は北欧文化を理解するうえで欠かせない言葉だが、家父長制や競争社会の側面が強い日本では同じような「信頼」文化はないと筆者は感じている。

雇用主側との信頼を築くために、例えサマーパトロール中に問題がある企業を見つけても、社名を名指しでメディアに漏らすことはしない。契約書など、そのような社会構造の問題があるかはメディアに話すが、社名を出して企業を「バスから放り投げるようなことはしない」とラーシュさんは話した。

「その企業には翌年も訪問して、労働者と話をしたいので。労働組合が職場に足を踏み入れるというのは他国では容易ではありません。ノルウェーがこのような状況で対立していないことは幸運だと思っています」

ラーシュさんの話に聞きこむしじみさん 筆者撮影
ラーシュさんの話に聞きこむしじみさん 筆者撮影

LOとのインタビューには「若者が声を届け、その声が響く社会」を目指す団体「NO YOUTH NO JAPAN」のしじみさんも同席していた。

「日本では自分たちの職場環境が違法なのか、そもそも気が付いていない若い人が多い。ユニオンがちゃんと話を対面で聞きに行くことは大事なのだなと思いました。若い人が若い人に会いに行くサマーパトロールはいい対策」と羨ましがっていた。

問題が見つかっても、企業名は出さずに、メディアには「社会構造の問題」として報道してもらうことにも「なるほど」と筆者は感じた。北欧と比べると、日本では個人や企業の問題として片づけられやすく、「社会全体の問題」として議論・報道されがちだ。

「前向きな変化をもたらすようにしている」というラーシュさんの言葉はLOの姿勢でもあり、だからこそ北欧ではストライキや労働組合文化が長く浸透し必要とされているのだなとも感じた。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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