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時間、形勢、いずれもほぼ互角のまま息詰まる終盤戦に突入 棋聖戦第4局▲渡辺明棋聖-△藤井聡太七段戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 65手目。渡辺棋聖は桂取りとなるように、端に角を上がります。この時点で残り時間は渡辺51分、藤井35分。両者ともに切迫してきました。

 棋聖戦第3局の渡辺棋聖の勝因は、事前研究が藤井七段を上回っていたこと。そして、それによって藤井七段が多く時間を使ったことが挙げられます。

 終盤、渡辺棋聖が香を二枚重ねて端の藤井玉を狙ったのに対して藤井七段は残り17分。そして9分を使って端に防壁として桂を打ちました。師匠の杉本昌隆八段はワイドショーでの解説で、その桂打ちを敗着と解説していました。その段階で藤井七段は残り8分。渡辺棋聖は1時間58分ありました。時間の使い方まで含めて、渡辺棋聖のパーフェクトに近い内容だったわけです。

 本局第4局では、渡辺棋聖は第2局の手順を見事に修正して、ペースを握ったようにも見えました。ただし、どこで想定をはずれたのかは局後に尋ねてみないことにはわかりませんが、難解な局面が続き、少しずつ時間を使っていくことになります。そして本局では、時間の消費具合は終盤に入る前にほぼ互角となりました。

 66手目。藤井七段は渡辺棋聖が打った桂を取ります。飛車で取り返されると、取ったばかりの桂を打って飛銀両取りがかかります。

 第2局で藤井七段は5筋四段目に守りの要の金を上がった後、その金の活躍で桂得を果たしました。本局では、金は違うルートをたどって、違う位置の桂を取っています。

 対して渡辺棋聖も角で藤井七段の攻め駒の桂を取ります。歩の数まで含めて、駒の損得なし。難解な形勢で推移する中、美しくバランスが取れています。

 藤井七段は中段で金を使います。サッカーで喩えれば、前線に飛び出したディフェンダーが元に返らず(金という駒はその性質上、バックするには足が遅いところもあります)仕事をし続ける感じでしょうか。

 渡辺棋聖は金で当たりになった銀を再び天王山、盤の中央に進めます。

 将棋の中終盤はしばしば「悪手の海の中を泳ぐ」とも喩えられます。指せる可能性がある多くの指し手は、ほとんどが悪手です。その局面における正解はわずかに1手、という場合も少なくありません。そうした中で、両者はほぼ最善に近い手を続けていきます。

 74手目。藤井七段が自陣一段目に受けの桂を打ったところで席を立ちます。

 盤の前に一人残された渡辺棋聖は右腕をたくしあげ、前のめりとなり、後ろにそって頭の後ろで両手を組み「いやいや」とつぶやきます。短く刈り込んだ頭を右手でぐるぐるとなぜ、そして中段に桂を打ちました。

 残り時間は藤井23分。渡辺21分。いつしか時間は、藤井七段の方がわずかに多く残るようになりました。

 時刻は18時を過ぎました。形勢は依然難解です。藤井七段は桂を取りながら渡辺玉の近くにと金を作り、盤上はいよいよ終盤に入ったと言ってもよさそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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