小学生がバスで運賃不足。バスに乗り合わせたあなたは誰にどう話しかけますか?
先月(2024年7月)下旬、静岡県の路線バスで下車をしようとした小学生のICカードが残高不足でした。不足額は80円でした。運賃が払えないことを運転手は叱りました。小学生はバスの乗り継ぎができず、炎天下を歩いて帰宅しました。運転手は威圧的とされ、また業務規定では残高不足の場合は目的地まで乗せた上で次回の乗車時に支払ってもらう決まりで、規定違反でした。バス会社は謝罪発表を公式サイトでしました。
以上が報道と発表から判明していることですが、これ以上詮索するつもりはありませんし、状況理解としては十分でしょう。
バスにいたら、誰にどう話しかけますか?
さて、このニュースでは多様な意見がヤフコメにも書き込まれました。
「運賃不足はいけない」「残高を確認しない親が悪い」「乗り継ぐかどうか運転手はわからない」「子供だから無料にするのは不公平」「横柄だと子供は萎縮する」「炎天下で歩かせるのはかわいそう」などです。意見は多様でいいのです。私にも意見はあります。しかし、ちょっと待てよと思いました。
私の乗る路線バスで同じようなシーンが起きたら、つまりもしもこの場にいたとすれば、「私はどうするか」と考えたのです。
舞台は停留所で停まったバスの中。登場人物はバスの運転手と子供、そして他の乗客です。バスが停まり、子供が降車口に歩いて、運転台脇の機械にタッチしました。ところが「残高不足」の表示。運転手がじろりと見ました。子供はどぎまぎしています。
あなたは他の乗客のひとりです。どうしますか?
意見ではなくことばを
いくつか話しかけパターンが思い浮かびました。
【運転手に話しかける】
「運賃不足なんだろう?降ろすしかないんじゃない」
「早く発車してくださいよ」
「次の乗車時に払ってもらえばいいじゃないですか」
【子供に話しかける】
「いくら足りないの?」
「小銭はもってないの?」
「どこまでいくの?」
話しかけないパターンもあるでしょう。
【誰にも話しかけない】
ただ黙っている。
窓の外を見る。
無視をする。
話しかけますか?やめておきますか?話しかけるなら誰にどう話しかけますか?これを考えて決めることが今週の〝話しかけドリル〟です。くれぐれも意見ではなく「ことば」ですからね。
ふと私は、かつて体験したアメリカのドラッグストアでの買い物シーンを思い出しました。
ニッコリ笑って〝You got it!〟
私はレジ行列に並んでいました。アメリカの小売店のレジが時間がかかりがちなのは、かつてあった小切手で支払うという習慣のせいもあったし、おしゃべりをする人もいました。しかしその時、私の前にいたお年寄りは現金払いで四苦八苦していました。
小銭が足りないようなのです。財布に指を入れても硬貨が出てこない。レジ係の人はじっと待っていました。老人客は焦ったようです。しまいには私の後ろに並んでいた男性が声を上げました。
「俺が払ってやる!いくらだ?」
その瞬間、小銭が見つかったようです。払い終えた老人客はホッとしたような顔でした。叫んだ男性も悪気で言ったわけではなかったのです。小銭が見つかったとき、ニッコリ笑って老人に「You got it!(あったじゃん)」と話しかけたからです。
このシーンを思い出して、静岡のバスでの私の話しかけのことばと行動は決まりました。
話しかけとは何だろう?
あなたの態度は決まりましたか?フレーズは?心の中で考える意見、そのままでしょうか?それともちがいますか?
意見をそのままことばに出せるとは限りません。なぜなら話しかけは現実に相手が目の前にいるからです。面と向かって言えないこともあるでしょう。こう考えると、話しかけの正体が見えてきます。
話しかけとは行動なのです。
相手とどういう関係を結ぶか、自分がこの社会でどう生きるかを決める行動なのです。話すことばが人をリアルに動かしていきます。もちろんネットに書かれたことばも、本にあることばも人を動かします。しかし、誰かが困っているその瞬間に必要なのは「ことば」です。だからこそ話しかけをする人が、社会のあらゆるシーンで増えていけばいいなと思います。