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怒りを鎮める話しかけ<その2>:相談員のひと言「あなた、やってるじゃない」でネガからポジへ転換

りり〜郷ことばのデザイナー
ネガティブな地点からポジティブな地点へー

前回コラム「怒りを鎮める話しかけ<1>」では、実施ステップを説明しました。<2>では怒りがどう鎮まり、ネガティブな思いがいかにポジティブに転換していくか、私の体験をもとに(内容は改変しています)説明します。

当時私は、あることでにっちもさっちもいかない、打開策が見つからないという思いにかられていました。ぶつける相手のいない怒りを抱き、自分の力不足にも絶望していました。そんな時、ある公的な団体が運営する「相談窓口」を知って、電話をかけてみました。相談員がこう話しかけてきました。

やり場のない怒りを相談窓口へ

「いかがされました?」

私は事情を説明しました。XXXという個人的な事情もあって、いくらがんばっても事態が好転しません、XXXもXXXもしてみたのですが、うまくいきません、その結果、こういう状況に陥りました。世の中は冷たい、おかしいと思います、と自分の状況や思いを吐き出したのです。

説明員はときおり「そうですか」「そうなんですか」といったフレーズを入れて聞き役に徹してくれました。私は心の底に溜まっている怒りのマグマをすくっては語り、すくっては語りました。そのうちに私のマグマは減り、冷えていきました。

「よくわかりました」

どうされました?それがにゃあ…
どうされました?それがにゃあ…

相談員の声は低いトーンで思いやりが感じられました。その低音のボイスでも冷やされたのだと思います。落ち着いてくると、自分が吐き出した怒りと悩みが恥ずかしくなってきました。そこで、その感情に至った理由や背景を補足していきました。特定の誰かのせいではないのは承知している、すぐにどうこうできないのもわかっていると。すると相談員は言いました。

「あなた説明が上手いわ」

相談員は相槌を打つだけでなく、そんな「褒めことば」も入れてきました。ますます落ち着いてきた私は、自分が悪いんだけどと、自分の非を認めていったのです。すると相談員が言いました。

「でもあなた、自分の生き方を信じているんでしょう?」

私は見えない相手にうなずき、私は間違ってはいない、ただフィットしないだけですと答えました。これで問題は明確になりました。問題とは「社会にフィットするにはどうすればいいのか?」でした。

「あなた、やっているじゃない!」というエール

相談員の話しかけは「引き出して理解する」ステップから「解決策探し」に向かいました。

「こういう方法はやったことあります?」

相談員が示した提案は未経験でした。しかし私の抱える問題を少し解きほぐしそうなものでした。相談員は、あなたと同じ境遇の人はそれをやっています、考えてみてくださいと言い、さらに別の提案も出しました。

「こういうことはご存知ですか?」

私はそれと同じことはしていますが、場所が違うし、内容も違うと思いました。しかし費用も安い解決のようでした。私は相談員の提案を書き留めて、どれもやってみますと言いました。一緒に解決策を決める〝連帯〟が生まれてきました。相談員は明るい声でこう言いました。

「あなたはもうやっているじゃない。それをもっとやればいいのよ

と、エールを送ってくれたのです。怒りと嘆きでネガティブに満たされていた私は、その瞬間、「やってみよう」とポジティブに変われたのです。

解決ポイントに着地!
解決ポイントに着地!

問題を解きあって前に進もう!

この相談窓口の相談には、思いを吐き出させて、問題点をまとめ、解決策を共に考える、まさに「怒りを鎮める3ステップ」がありました。加えて、意気消沈した相談者を発奮させる「エール」という合いの手があったのです。

電話を切った後に思い起こしてみると、相談員は一度もダメ出しや否定語を言いませんでした。否定語は怒りを解かず悩みを深めます。相手の行動や思いを否定してはなりません。否定するのは「相談者自身」がするのです。それを誘導できるのが、怒りを鎮める話しかけの最上のものです。反省のことばが自然に出たところにエールを送る。ポジ転への転換になります。

企業のカスハラ対策では、「客に理不尽な物言いをされたら断固たる態度をせよ」となりますが、それは守るものが多く、守る規模も大きく、出口として訴訟なども意識するからです。しかし個人対個人、小さな組織での対応では、「盾を立てる」のではなく「受けとめる器を持つ」ことが大切です。怒る相手は「怒り」ではなく「問題」を抱えているからです。相手がポジティブになって前に進むことが大切なのです。

あそこまで飛べるように、がんばろう。
あそこまで飛べるように、がんばろう。

またご興味を抱く読者は少ないと思いますが、私の相談内容はぼかして書きましたが筆者プロフィールをご覧いただければ推察いただけると思います。朝ドラのようにスイスイ生きれる人ばかりではないのです。

以上、2回にわたって「怒りを鎮める話しかけ」をテーマにしました。残暑が続きますが、怒りっぽくならないようにしましょう!<その1>はこちらです。

ことばのデザイナー

人に話しかけると良いことが起きます。あなたも相手もポジティブに明るくなれます。話しかけから人の輪が広がり、支え合いや励まし合いにつながります。読むと誰かに話しかけたくなるこのコラムの書き手は、ライター歴20年、インタビュー歴300件以上、対話力講座の講師や組織改革支援プロジェクトを数百名に数百回の経験があります。かつて内向的で「心の壁の内側」にいた私は、トランスジェンダーとして自分らしく生き直しだしてから、心を開いて人の中に入れるようになりました。〝ヒト•イマ•ツナガル〟の話しかけメソッドで、共に話しかけ上手になりましょう。

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