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中国で初、富裕層向け日本観光&ライフスタイル雑誌が創刊!

中島恵ジャーナリスト

上海の街を歩いたり、レストランで食事したりしていると、ときどき「ええっ?」と思う光景に出食わすことがあります。洗練されたTシャツとジーンズを着こなしてカッコいいクルマを運転していたり、きちんとした身だしなみで高級レストランで静かに食事している若いカップルがいたり…。その「垢抜け度」の速さに度肝を抜かれるのです。あぁ、いつの間に中国はこんなに洗練されていたのか、と……。

先端の人ってどこまで進んでいるのだろう? どんなライフスタイルで、どんな情報源を持って行動しているのだろう? そう思っていた矢先、おしゃれな月刊誌が創刊されました。

その名は'''『行楽』(現代家庭雑誌社=毎月5日発売)。'''100%日本観光に焦点を当てた中国初のトラベル&ライフスタイル雑誌です。

『行楽』の表紙。オールカラーで日本を紹介
『行楽』の表紙。オールカラーで日本を紹介

創刊号(1月号)の特集は北海道。海の幸に始まって温泉や旅館、リゾートやスキー場、旭川家具までふんだんなカラーグラビアで取り上げています。人物インタビューは中国でも著名な建築家、隈研吾氏。日本人の私でも思わず手に取ってみたくなるような読み応えのあるページが満載ではありませんか。2月号は九州、3月号は温泉、4月号は鎌倉や横浜などの古民家散歩……。中国にも日本旅行者向けのいわゆる「ガイドブック」や日本地図は売っていますが、そうしたものとは一線を画す“通のための本格的な日本紹介雑誌”が、この『行楽』なのです。

創刊にかかわった上海征西広告社長の袁静さんは「中国人の日本への個人旅行を応援する雑誌です。温泉地紹介など通り一遍の単純な情報ではなく、多様化するニーズに合わせて一歩踏み込んだ、オリジナルでユニークな情報をお届けしようというものです。発行部数は現在20万部(一部無料配布あり)。ズバリ、日本の旅、モノ、アウトドアなどに関心のある30~40代の高学歴・富裕層をターゲットにしています」と語ります。

袁さんによると、昨今は都市部に住む30代~40代の富裕層の日本への個人旅行が急増しており、「彼らは、たとえば週末の2~3日を利用して、北海道のザ・ウィンザーホテル洞爺とか瀬戸内海の直島の高級旅館に宿泊したりと、気軽に日本旅行を楽しんでいるんですよ」とか。そうした人々はこれまで独自のネットワークで情報収集して旅を楽しんできましたが、まだまだ情報不足。その上、「お決まりコースのツアー以外に、自分たちだけで日本旅行を楽しみたい層は潜在的にまだまだいるはず」であることから、雑誌の創刊に踏み切りました。

日本旅行でリラックス&リフレッシュしたい富裕層

同社の調査によると、日本旅行を楽しむ富裕層は年収50万~100万元(約750万~約1500万円)、またはそれ以上の人々で、日本へのネガティブなイメージや抵抗感はほとんどといっていいほどないそうです。むしろ、自然豊かな日本を愛し、日本人のモノ作りなどを尊敬する良識ある人々が少しずつ増えているとのこと。

団体のツアー客については「大声でしゃべってうるさい」、「道にごみを捨てて困る」などマナーの悪さにまつわる悪評が聞こえてくるのも事実ですが、一方で、日本の観光地にとってはありがたい「上客」もいます。

同社が取った統計では、読者の70%以上が「訪日経験あり」で、もともと日本に強い関心を持つ人々。1回の旅行にかけるコストは1~3万元(約15万~45万円)が42%、3~5万元(約45万円~75万円)も。訪日歴については1回(22%)、2回(14%)、6回以上(20%)という回答もあり、「近場で安く、心底リラックスできる」日本旅行をエンジョイしているというから驚きです。

現に、わざわざ高級旅館に泊らなくとも、中国人の多くが来日して感嘆するのが、日本のおいしい空気や安全な水、どこにでもあるコンビニや自動販売機など、日本人が日頃とくにありがたみを感じない日常にあります。

袁さんによると、今年5月から上海市内のファミリーマートで雑誌の市販(10元)を開始したほか、中国版アマゾンなどでも購入が可能。微博(中国版ツイッター)やメールマガジン(毎月2万2000人に配信)も開始し、紙媒体をメインとして、クロスメディアで情報を届けていく計画です。4月からは中国の旅行会社とタッグを組み、日本への親子ツアーに関する情報を提供しており、日本の北海道や九州など地方自治体とのタイアップ記事も載せています。

「香港や台湾の人々は自分なりの旅の楽しみ方を習得し、すでに成熟した旅行を楽しんでいますが、中国ではそうした人々はまだわずか。しかし、これから急速に広まっていくことが予想され、旅行ブームはまだまだ続きます。私たちは “行楽スタイル”を確立し、最先端を走る人々に向けて、日本についてオンリーワンのユニークな情報を発信していきたいと思っています」と袁さん。

政治的には緊張関係が続く両国ですが、身近な人と人との交流は相互理解にとって何より重要なもの。ありのままの日本の姿を多くの中国人旅行者に見てもらうことは、日中関係にとってもプラスになるのではないでしょうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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