金正恩は日韓関係の改善をどのように見ているか
韓国の尹錫悦政権が、日韓間の懸念となっている徴用工問題の解決に向け、国内財団による賠償金支払いの「肩代わり」案を公表した。これを受け、日韓政治の関係改善が急速に動いている。米国も歓迎しており、今月16~17日の尹氏の訪日、そして4月末の尹氏の国賓待遇での訪米に続き、早い時期に日米韓の3国首脳会談も予想される。
一方、日米韓の防衛当局は、北朝鮮の弾道ミサイル発射情報の即時共有に向け、局長級の「日米韓防衛実務者協議(DTT)」を4月中旬に米ワシントンで開催する方向で調整しているという。
北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験などで、ミサイルを東に向けて打つ。この際、韓国軍はレーダーなどで発射段階の情報をつかむことができるが、ミサイルを最後まで追うことができない。逆に日本からは、発射段階は補足できないが、飛んできたものがどこに向かうかを把握できる。
米国の偵察衛星のデータも含め、こうした情報がリアルタイムで共有されることが望ましい。日米と米韓はそれぞれの間でシステムがつながっているのが、日韓はリアルタイムでの情報共有ができていない。今後実現するには、言うまでもなく良好な政治環境が必要だ。
ひとことで言って、良好な日韓関係は北朝鮮にとって損失だ。そのため1990年代、故金正日総書記は日本から与党訪朝団を招くなどして、「韓国外し」を画策した。韓国もまた、情報機関が握る北朝鮮の日本人拉致情報を日本に流すなどして、日朝接近をけん制した。
ということは、北朝鮮は日韓の関係改善に水を差すために、何らかの策をめぐらせるのだろうか。金正恩総書記の母は大阪出身である。日本に対して特別な思いがあっても不思議ではない。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈(1)すべては帰国運動からはじまった)
しかし結論を言ってしまうと、北朝鮮はそのようには動かないだろう。最大の理由は人材の欠如だ。
かつて日朝貿易が活発だった時代、北朝鮮の権力者にとって日本は重要な資金源だった。(日本経済にとって大した規模ではないのだが、北朝鮮にとっては大きかった)
そのため、朝鮮労働党の高官の中でも特に実力のある者が対日部門を仕切った。在日朝鮮人の実業家も頻繁に往来し、外国語大学では日本語科に人気が集まった。
ところが、日本は国連安保理の制裁決議に加えて独自制裁も行い、北朝鮮との貿易を全面的に禁じている。もはや日本に関心を持つ人は少なく、日本について知識のある高官もことごとく鬼籍に入った。
もしかしたら金正恩氏自身は、日本や日韓関係について何か思う所があるかもしれない。だが、何を思ったとしても、彼の意を汲んで働くことのできる人材がほとんどいないのだ。