北朝鮮軍を瓦解させる、19歳兵士の脱走理由「人生なんかどうでもいい」
北朝鮮の朝鮮人民軍の兵力は、韓国国防省の推計で100万人に達する。そのうち、30万人が建設部隊に所属している。彼らは、金正恩総書記が各地で進める国家的建設など様々な工事に従事している。
彼らは、地方発展20×10政策の一環として、平安北道(ピョンアンブクト)で行われている地方工業工場の建設にも投入されているが、あまりにも劣悪な労働環境に耐えかねて、次々と脱走している。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
道内のある建設現場から先月、工兵部隊所属の19歳の兵士が脱走した。まもなく身柄を拘束された彼は、取り調べに次のように述べた。
「地方工場建設を10年間行うというのが元帥様(金正恩氏)の方針だが、そうすれば自分が除隊するまでずっと建設ばかりしなければならないではないか。それはともかくまずは空腹に耐えられない。さらに仕事があまりにもきつくてつらい。それで、生活除隊(不名誉除隊)の処分を受けようと、わざと脱走した。生活除隊させてほしい」
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朝鮮人民軍の食糧事情の劣悪さは今に始まったことではない。
食糧は農場から供給されることになっているが、損をすることを嫌った農民は、穀物を隠匿して、軍への供出を少しでも減らそうとする。供出後、輸送の過程では横流しが行われる。かくして、兵士のもとに届く頃には量がすっかり目減りする。
横流しされたものは、市場で売り払われるが、国はこの「悪循環」を断ち切るために、市場での穀物売買を禁止し、国営の糧穀販売所だけで販売できるようにした。しかし、過去30年間に自然に形成されていった、末端の兵士を犠牲にするこのような流れを断ち切ることは非常に難しい。
取り調べ担当者は、脱走を図った兵士にこのように尋ねた。
「生活除隊されれば、社会に出て出世の可能性がなくなるが、それでもいいのか」
これに対して兵士は「それでもいい」と返したという。
兵役を期間満了で終えるのではなく、途中で辞めさせられて実家に戻った者は、朝鮮労働党への入党や大学入学のチャンスが与えられず、「いったい何をやらかしたのか」という世間の白い目に晒されつつ、一生貧しい暮らしを強いられることになる。
人生まだこれからの19歳の若者に、「人生どうなってもかまわない」と言わせてしまうほど、食糧状況が悪いということだ。
なしくずし的に進んだ市場経済化がうまくいき、一般庶民も飢えることなく生活できるようになっていた2010年代でも、軍では深刻な食糧不足が続いていた。栄養失調になり実家に一時的に送り返される者が多くいて、国全体の食糧事情が悪くなった今、軍とて例外ではない。
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だが、兵士の要望を認めてしまうと、空腹に耐えかねて除隊処分を受けるために脱走する者が続出し、部隊が瓦解してしまいかねない。部隊は、彼を軍に所属させたまま、最もしんどい現場に送り込む処分を下した。再び鍛え直すのが正解だと判断したのだ。
しかし、情報筋はこのやり方に疑問を呈した。
「部隊は、臨時措置で脱走を抑えているが、劣悪な環境、空腹、病気による脱走の問題は簡単には解決できないだろう」
ちなみに北朝鮮のGDPに占める軍事費の割合は、15%以上で世界最高だ。具体的な額は公表されていないが、ミサイル発射実験を繰り返していることを考えると、相当額に達するものと思われる。ちなみに韓国政府の2022年の推測によると、北朝鮮は71回のミサイル発射実験で7億ドルを費やした。これはコメに換算すると、北朝鮮全国民の46日分に相当する。