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アトピー性皮膚炎の新治療法:複数の生物学的製剤・分子標的薬の併用療法の可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【アトピー性皮膚炎治療の新たな展開:複数の生物学的製剤・分子標的薬の併用療法】

アトピー性皮膚炎は、多くの患者さんを悩ませる慢性的な炎症性皮膚疾患です。近年、新しい治療薬の登場により治療の選択肢が増えましたが、それでも十分な効果が得られない患者さんがいるのが現状です。そこで注目されているのが、複数の生物学的製剤や分子標的薬を組み合わせる併用療法です。

今回、最新の研究結果をもとに、この新しいアプローチの可能性について詳しくお伝えします。

【併用療法の効果:症状改善と生活の質向上】

研究では、59人のアトピー性皮膚炎患者さんを対象に、複数の生物学的製剤や分子標的薬を併用する治療法の効果が調査されました。その結果、驚くべき改善が見られたのです。

まず、皮膚の状態を示すEASI(アトピー性皮膚炎の重症度を評価する指標)スコアが平均26.9ポイント改善しました。これは、症状が大幅に軽減したことを意味します。

また、患者さんの生活の質を示すDLQI(皮膚疾患が生活の質に与える影響を評価する指標)スコアも平均20.1ポイント改善しました。つまり、患者さんの日常生活がより快適になったということです。

さらに、体表面積に占める症状の割合を示すBSAスコアも平均46.3ポイント改善しました。これは、症状が広がっていた範囲が大幅に縮小したことを表しています。

この結果から、併用療法が難治性のアトピー性皮膚炎に対して非常に効果的である可能性が示唆されました。

【安全性と副作用:慎重な経過観察が必要】

新しい治療法の効果が期待される一方で、安全性の確認も重要です。この研究では、30人の患者さんのうち27人(90%)で副作用は見られませんでした。

しかし、2人の患者さんで結膜炎、1人で軽度の眼の刺激が報告されています。これらの副作用は比較的軽度であり、治療を中止するほどのものではありませんでした。

この結果は、併用療法の安全性が比較的高いことを示唆していますが、長期的な安全性については更なる研究が必要です。患者さん一人一人の状態を慎重に観察しながら、治療を進めていくことが重要だと考えられます。

【個別化治療の重要性:患者さんに合わせたアプローチ】

アトピー性皮膚炎の治療において、患者さんごとに最適な治療法を選択することが極めて重要です。この研究でも、様々な併用パターンが試されました。

最も多かったのは、デュピルマブ(アトピー性皮膚炎治療薬)とオマリズマブ(重症喘息治療薬)の組み合わせでした。他にも、デュピルマブとグセルクマブ(乾癬治療薬)、デュピルマブとウステキヌマブ(乾癬治療薬)などの組み合わせが試されています。

また、生物学的製剤とJAK阻害薬(炎症を抑える分子標的薬)を組み合わせた例も報告されています。

これらの組み合わせは、アトピー性皮膚炎以外の合併症(喘息や乾癬など)の治療も同時に行えるというメリットがあります。

日本でも、アトピー性皮膚炎の治療にデュピルマブやJAK阻害薬が使用されていますが、複数の薬剤を併用する治療法はまだ認められていません。しかし、この研究結果は、難治性のアトピー性皮膚炎に悩む日本の患者さんにとっても、新たな希望となる可能性があります。

アトピー性皮膚炎の治療は日々進歩しています。この併用療法の研究結果は、より多くの患者さんが症状の改善を実感できる可能性を示しています。しかし、まだ研究段階の治療法であることを忘れずに、主治医とよく相談しながら、自分に合った最適な治療法を見つけていくことが重要です。

参考文献:

1. Metko, D., et al. (2024). Dual Biologic or Small Molecule Therapy in Patients with Atopic Dermatitis: A Systematic Review. Clinical and Experimental Dermatology, llae308.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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