クアトロ・フゴーネスとの決別。スペインの新たな軸と、黄金期の代償。
ロシアの敗戦が、スタイルへの猜疑心を生んだ。
故ルイス・アラゴネスの功績は、完全に過去のものとなった。アラゴネス指揮下でEURO2008を制し、その後2010年の南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012と主要大会3連覇を成し遂げたスペイン代表だが、それからはEUROとワールドカップでベスト8の壁を破れずにいる。
■クアトロ・フゴーネス
シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、ダビド・シルバ、セスク・ファブレガス。彼らは「クアトロ・フゴーネス(四人の創造主)」と呼ばれ、スペイン代表の中核を担った。
だが、時代は必ずいつか終焉する。スペインにとって、それはブラジル・ワールドカップの惨敗という形で訪れた。
屈辱的な敗退を受け、ポゼッションの是非が議論された。ジエゴ・コスタの起用法に常に関心が集まり、ロングボールを使ったフットボールに対して一部では露骨に拒絶反応が起こった。コスタを重宝したフレン・ロペテギは檜舞台に上がる直前に解任され、スペインはモスクワの地で散った。
クアトロ・フゴーネスの残像を、スペインは振り払えずにいる。それは即ち、過去の成功体験との決別を意味する。その道程はまったく単純ではない。重要な任務を託されたのは、「ルチョ」の愛称で親しまれるルイス・エンリケ監督である。
■再構築
ルチョの改革ーー。その出発点は、中盤の再構築に他ならない。
黄金期において、絶対的な存在だったのがシャビだ。シャビという操舵士を欠いたスペインは、時としてピッチ上で彷徨っているように映る。羅針盤の役割を果たす選手がいない。彼の不在感は非常に大きい。
シャビが抜けた穴を埋めるために、新たな選択肢を示す必要がある。現代表で、攻撃の方向舵を握るのはセルヒオ・ブスケッツだ。ブスケッツは時間を管理する選手であり、試合を読む力に長けている。
PK戦の末に敗れた2018年ワールドカップのロシア戦、中盤でブスケッツと組んでいたのはコケとイスコだった。イニエスタとシルバはウィングに「追いやられる」格好となり、スペインが起点を作る場所はサイドになった。ポゼッション率(79%)とパス本数(1137本)でロシアを圧倒しながら、勝利できなかった要因のひとつは、そこにある。
ルチョの初陣で、ブスケッツを「囲んだ」のは、チアゴ・アルカンタラとサウール・ニゲスだった。中盤の逆三角形。ルチョは、ブスケッツの周りに、ボックス・トゥ・ボックス型の選手を置こうとしている。
サウール、ダニ・セバジョス、ファビアン・ルイス、彼らはいずれも走力のある選手たちだ。味方と味方の結合部分になれるMFで、ルチョが必要としているのは勤勉な、労働を厭わない、機動力のあるプレーヤーなのだ。
■異なる軸
スペインは「チキ・タカ」と呼ばれるパスを繋ぐスタイルで世界を席巻した。
ただ、ポゼッションは一本調子になる傾向があり、ボールを保持する戦い方においては決定力のあるストライカーが必要不可欠になる。現在のスペインに、絶頂期のフェルナンド・トーレスやダビド・ビジャのような選手はいない。
ルチョが求めているのは、フットボールの簡略化だ。その手始めに、中盤に新たな血を入れた。そこには、チキ・タカからの脱却という可能性が秘められている。
黄金期の始まりは美しかった。だが、いつまでも郷愁に浸っているわけにはいかない。これまでとは異なる軸を支えに、ルチョの冒険は続く。