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オスプレイ墜落に怯える沖縄・高江―「負担軽減」のウソ、1日6.9回の飛行訓練、住宅や公民館の上空も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

基地反対の「オール沖縄」の民意を無視して、全国の米軍基地の7割以上を抱える沖縄へ、さらなる基地負担を押し付けようとする安倍政権。現地で問題となっているのは、辺野古沖への基地建設だけではない。今年2月、沖縄県北部の東村高江の米軍ヘリパッド(ヘリコプターの発着場)で、米軍輸送機MV22オスプレイの運用が周囲の住民の反対を無視して強行された。現地時間今月17日のハワイでのMV22オスプレイの墜落事故を、高江の人々はどう受け止めているのか。

映像提供:高江現地行動連絡会

○ 村営住宅や公民館の上をオスプレイが飛んでいく

「やっぱり怖いです」と語るのは、高江住民で「ヘリパッドいらない住民の会」の石原岳さん。「村営住宅や公民館の上を飛んでいきますからね。学校なんかに落ちたら…なんて、どうしても考えちゃいますね…」。オスプレイが高江にやってきたのは、今年2月25日の午前11時頃。昨年7月に新設された米軍のヘリパッド「N4-2」に離着陸。さらに午後4時半頃、「N4-1」と「N4-2」に飛来。夜10時頃まで、轟音をとどろかせながら離着陸訓練を行った。以来、高江の上空を連日オスプレイが飛んでいるという。「特に、ここ最近は、全く遠慮がない感じですね」(石原さん)。

○「沖縄の基地負担減」というウソ、むしろ負担増

高江のヘリパッドも辺野古への基地移設についても、日米両政府は表向きはSACO合意、つまり、1995年の米兵による少女暴行事件をうけての「基地の整理縮小」「沖縄の基地負担減」だとしている。だが、石原さんは「結局、日米両政府の沖縄の基地負担減という合意(SACO合意)は、実際には、負担減なんかでは無く、むしろ負担増。米軍基地返還ではなく、米軍基地のリニューアルオープン、ということなのでしょう」と語る。SACO合意では、高江周辺の北部訓練場の半分を返還するとされた。だが、従来の22ヶ所のヘリパッドに加え、この2月からオスプレイが飛来したN4-1、N4-2を含め、6つのヘリパッドが高江の集落を取り囲むようなかたちで新設される計画なのである。また、地元紙・琉球新報の報道(今年2月26日付け)によれば、東村高江や国頭村安波に新設される着陸帯でのオスプレイの訓練は年間2520回想定されており、既存着陸帯でのCH46ヘリの着陸帯使用回数の倍に増えるという。つまり、年間365日毎日発着訓練するとして、1日あたり6.9回という頻度である。「高江ヘリパッド建設反対現地行動連絡会」の間島孝彦さんは「これまでも高江の住民達は激しい爆音に悩まされてきました」と語る。「ヘリが近くで飛んでいる時は、例えば電話での通話が困難になる程、騒音が大きいです。特に地形的に盆地になっている地域には、そこに爆音が集中するという問題もあります。事故も、勿論心配です。民家や学校の上も米軍機は飛んでいきますから」(間島さん)。

○無視される地元の意向、スラップ訴訟で弾圧、県道を「米軍専用」に

国や米軍の地元無視は酷いものだ。今年2月23日、東村村議会はN4地区の着陸帯の使用禁止を決議した。しかし、その翌日24日、米軍のCH53ヘリがN4地域での離着陸を行う。さらに25日にオスプレイの離着陸訓練が開始された。防衛省・沖縄防衛局も、反対派住民の座り込みが工事車両を妨害しているとして、2008年11月に通行妨害の仮処分を那覇地裁に申し立て。当初は、抗議活動に参加していなかった7歳の児童まで訴えられるなど、その異常さが「防衛省によるスラップ訴訟」*として、注目を集めた訴訟の行方は昨年6月、最高裁が訴えられた住民の上告を棄却。しかも、具体的な理由も示さずに、その棄却が「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由」という憲法21条で保障された権利を侵害するものではない、としたのだから噴飯ものだ。琉球新報もその社説(2014年6月19日付)で“「憲法の番人」「人権の砦」としての使命を自ら放棄したに等しい”と断じた。反対運動への弾圧は訴訟だけにとどまらない。前出の石原さんは「県道の路側帯を『米軍専用』とすることで、住民の抗議活動の封じ込めを行おうとしているです」と語る。現在、ヘリパッドの新設が予定される高江のN1地区の入り口となる県道70号には、住民が監視テントを設営している。この県道70号は、路側帯も含め、日米共同使用区域となっており、市民の通行などは制限されない。ところが、防衛省は県道70号の路側帯を、米軍のみが使用できるという管理状況にすることで、市民の立ち入りを制限、監視テントも強制排除しようというのだ。

○なりふりかまわずの基地拡大、民意を尊重し自然環境を守るべき

沖縄県の翁長雄志知事は今日18日午後、県庁での記者会見で、ハワイでの事故を受け、沖縄に配備されているオスプレイ24機に関し、事故原因が究明されるまで飛行を停止するよう、米側に求める方針を明らかにした。高江でのヘリパッド建設についても、翁長知事は、沖縄の全41市町村長らが署名したオスプレイ配備反対の「建白書」に基づき、昨年11月の知事選で反対を表明している。自然環境への配慮も必要だ。ヘリパッド新規建設予定地は、4000種もの野生生物が生息、その中にはヤンバルクイナやノグチゲラなど、この地域の固有種も含まれる生物多様性の宝庫であり、環境省版のレッドデータブック記載種も177種と、絶滅が危惧される野生生物のすみかである。IUCN(国際自然保護連合)も日米両政府に対し、米軍ヘリパッドのゼロオプション、つまり建設計画自体を撤廃することを含めた代替案や、ノグチゲラ,ヤンバルクイナの保護区設定と保全行動計画の作成を勧告している。安倍政権や、オバマ政権がやるべきことは、強引な米軍基地建設ではなく、沖縄の民意と自然を尊重することなのである。

(了)

*スラップ訴訟とは、国や大企業が、市民団体やジャーナリストなどの個人などに対し、恫喝・発言封じなどの威圧的、恫喝的あるいは報復的な目的で起こす訴訟のこと。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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