Yahoo!ニュース

「子供の自殺」を増やさないために大人ができること

河合薫健康社会学者(Ph.D)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

「学校が死ぬほどつらい子は図書館へいらっしゃい」ーー。

神奈川県鎌倉市立の図書館の公式ツイッターが、13時間で4万回以上

リツイートされたのは今からちょうど2年前。

If you feel like shooting yourself , don’t .Come library for help instead.

夏休み明けに自分を追いつめる子どもが増えることを知った図書館司書の

女性が、米国の図書館に貼られている、ピストルを自分の頭に突きつけている男と

その周囲に本がたくさん積まれているポスターに書かれていたフレーズを

思い出し、

「図書館には、問題解決のヒントや人生を支える何かがあるよ」

との思いを込めてつぶやきました。

そして、今年。東京都の上野動物園が8月30日、Twitterの公式アカウントで

「学校に行きたくないと思い悩んでいるみなさんへ」

「もし逃げ場所がなければ動物園にいらっしゃい」

と呼びかけました。

今では社会問題として認知されるようになった9月1日の子どもの自殺は

「9月1日問題」「夏休み明け自殺」と呼ばれています。

ちます。

学校でしんどい思いをしていた子どもが「学校に戻ること」のプレッシャー

に耐えられなくなったり、夏休み中に元気を取り戻した子どもが「何も

変わっていない現実」にショックを受けたり……。

「生きていても仕方がない」ーーー。

そんな風に自分を追いつめてしまうのです。

かつて健康社会学やストレス学の世界では「子どもは自殺しない」という

のが定説でした。

赤ちゃんは、お母さんのお腹から出て、誰にも教わっていないのにハイハイ

をし、必死で立ち上がり自分の足で一歩前に踏み出します。

三ヶ月微笑と呼ばれる「赤ちゃんの笑顔」も、1人では生きていけない人間に

プログラムされた「最初のコニュミケーション」です。

つまり、人は生きるために生まれる。人には「生きる力」がある。

自殺は「ストレス社会が犯した殺人」であり、ストレス社会の一員になって

いない子どもが自ら命を断つことはない。

そう考えられていたのです。

ところが2000年代に入ってから、子どもたちが自ら命を絶つ悲劇が繰り

返されるようになりました。

小中高校生の自殺者はこの10年、年間300人前後で推移。

日本全体の自殺者数は減っているのに、小中高校生の悲しい死は全く減って

いないのです。

数年前、小学3年生の子がベランダで首を吊って自殺するといういたましい

事件がありました。まだ10歳の子が命を断つ社会。これは異常と言わざる

おえません。

以前、自殺予防のシンポジウムにパネリストで参加したとき、子ども自殺

対策に取り組んでいる先生が次のように述べていました。

「リストカットする子どもたちは誰一人として、最初からそういう子ども

だったわけじゃない。ストレス社会でイライラした大人たちが、それを

子どもたちにぶつける。その結果、子どもたちは傷ついていく。

会社でストレスがたまった父親は、母親を家庭で怒鳴り散らす。家庭に

イライラが伝染するんです。

誰からも褒められたことがない。誰からも認められたことがない。

そんな子どもたちは、自分を肯定することができません。自分は生きて

いる意味がないと、自ら命を断とうとするのです」

大人であれ、子どもであれ、自殺する人の誰一人として進んで死を

選ぶ人はいません。死にたくないけど、死ぬしかない。ホントは生きたいのに

「自分には生きている意味がない」と生きる力が萎えてしまうのです。

私たち「人」にとって1番のストレスは

「自分の生きる場所がない、生きる意味がない」

と感じることです。

子どもの「死にたい」という言葉は、「さみしい」「私を見て」と同義です。

なのでどうかみなさん、みなさんの周りの子供たちに「君が必要なんだよ」

と声をかけてください。

「ちゃんと見てるよ!」とアテンションしてください。

「ありがとうね」「がんばってるね!」と声に出して欲しいです。

たった1人でも「アナタが必要なんだよ」というメッセージ

を送ってくれる人がいれば、救われるのに。命があるはずです。

いや、必ず「ある」。

「生きている意味がない」などと悲しすぎる理由で、命を絶つ子どもを

救うためにメッセージの送り手になってください。

健康社会学者(Ph.D)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。 新刊『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか』話題沸騰中(https://amzn.asia/d/6ypJ2bt)。「人の働き方は環境がつくる」をテーマに学術研究、執筆メディア活動。働く人々のインタビューをフィールドワークとして、その数は900人超。ベストセラー「他人をバカにしたがる男たち」「コロナショックと昭和おじさん社会」「残念な職場」「THE HOPE 50歳はどこへ消えたー半径3メートルの幸福論」等多数。

河合薫の最近の記事