「退職金25年で1166万円減」 捨て石にされる氷河期世代
首相の諮問機関「政府税制調査会」が予告していたとおり、再び「サラリーマン増税」こと、退職一時金課税見直し議論が始まりました。
「議論を深められるかは不透明」との意見も聞こえてきますが、2023年6月に岸田政権が「骨太の方針」に盛り込み、大炎上しお蔵入りしたものを引き出してきたということは、「何がなんでもサラリーマンを政府の“便利な財布“にしたい!」が本音なのでしょう。
しかも昨年、骨太の方針に盛り込まれた「新しい資本主義」の実行計画には以下のように記されていました。
ー退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年当たりの控除額が40万円から70万円に増額される。これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。
勤続20年、そう、勤続20年です。これに相当するのは40代、いわゆる「氷河期世代」です。
いわずもがな「氷河期世代」を作ったのは経営側のご都合であり、低賃金の非正規雇用を増やし、正社員との格差を広げたのも経営側の問題です。「転職が増えているのに実態に合わない」だの、「退職一時金課税制度を見直し労働移動を促す」だの、「中立的な税制」だのとごもっともな主張を政府は繰り返しますが、あまりにひどい、としかいいようがありません。
そもそも「空前の賃上げブーム」などとメディアは騒ぎ立てていますが、時間外や休日手当を除く「所定内給与」は、大卒の男性20代前半・後半では、前の年からの伸び率がそれぞれプラス3.1%、プラス3.4%だったのに対し、30代後半は0%、40代は1%台、50代前半はマイナスです(内閣府調べ)。
内閣府が、総務省「全国家計構造調査」「全国消費実態調査」の個別データをもとに1994~2019年の世帯所得の変化を分析した結果では、25年間で年収の中央値は「550万円から372万円へ」著しく減少し、特に45~54歳では94年の826万円から195万円も減少。氷河期世代を含む「35~44歳の単身世帯」の所得のボリュームゾーンは、94年の500万円台から300万円台へと200万円ほども減っていました。
それだけではありません。勤続35年以上・大卒者の平均退職金額も、97年の3203万円から22年は2037万円と、1166万円も減り、退職金制度がある企業も89%から75%に低下しています。
つまり「中立的な税制」「中立性のための見直し」という美しい大義名分が、退職金の制度や額が保証されている大企業のサラリーマンの優遇策になりかねない矛盾をはらんでいる。
議論するのは大いに結構ですが、政府が「いったい何のための退職一時金課税見直しなのか?」「中立とは何なのか?」をきちんと整理して、説明しないことには納得できません。
それにしてもなぜ、こんなにも企業側は長期雇用を嫌い、「切ること」を前提にした経営ばかりめざしたがるのでしょう。超高齢社会で40歳以上が増え続けている現状を鑑みれば、いかに愚策かくらいわかるはずです。
雇用流動化を促せば「経済は回る、経済は成長する!」と妄信していますが、日本企業が稼げなくなっているのは、「人」の可能性を信じる経営をしていないからです。
「グローバル職場環境調査」によると、仕事への熱意や職場への愛着(エンゲージメント)を示す社員の割合が、日本はわずか5%です。世界平均は過去最高の23%なのに、日本は4年連続の横ばいで地を這うような数字が続いている。わずか5%。社員20人のうちたったの1人です。
世界の企業がエンゲージメントにこだわるのは、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すことでしかグローバル社会で勝てないことを知ってるからです。
「幸せになるために働く職場にしたい! 協働する職場にしたい! 社員が元気になれば会社も元気になる! “人“を中心にした経営を実現しよう!……という経営者の熱意と覚悟が、エンゲージメントへの関心を駆り立てている。逆に言えば、仕事への熱意や職場への愛着を示す社員の割合が「世界最低レベルの5%」という数字は、日本には熱意と覚悟のある経営者が「たった5%しかいない」ことでもあります。
興味深い調査結果があります。
Indeedが、5ヵ国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、韓国)の20~50代の正社員(無期雇用/フルタイム就業者)男女約9000人を対象に、「転職」に関する意識調査を実施したところ、
- 日本は4人中3人が「仕事よりもプライベート優先」「仕事はあくまでお金を稼ぐため」と回答し、5ヵ国中1位。「仕事で、昇進・昇格したい」はドイツが79.7%で最も高く、アメリカ・イギリス・韓国でも7割前後である一方、日本はわずか46.4%で最下位。
- 転職理由は、日本は「現状の職場に不満や嫌なことがある」(40.9%)がトップだったのに対し、他国はいずれも「現状の仕事に大きな不満はないが、自分にとってプラスになる可能性がある」が45%以上を占めた。
さて、いかがでしょう。
日本の問題がどこにあるか、おわかりですね。
そして、国は税収を増やしたければ、増え続ける富裕層の税率を議論すべきでしょう。国税庁の2022年の「申告所得税標本調査」では、税負担率は所得が上がるにつれて徐々に増え、5000万円以上1億円以下で26.3%に達するものの、1億円を超えると平均22.5%に下がっているのですから。