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「キャプテン・マーベル」と「ワンダーウーマン」が見せた世の中のリアル

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
ブリー・ラーソン主演の「キャプテン・マーベル」は全世界で大ヒット中

 女性が主役の「キャプテン・マーベル」が、全世界で大旋風を巻き起こしている。

 映画は先週、北米で予測を上回る1億5,300万ドルを売り上げて、華々しくデュー。これは今年最大のオープニング成績で、3月に公開された映画では史上3番目だ。北米外でも絶好調。西海岸時間14日現在の世界興収は5億4,100万ドルと、やはりマーベルのスーパーヒーロー映画である「アントマン」の世界興収総額をすでに抜いている。

 女性のスーパーヒーロー映画では、2年前にもDCの「ワンダーウーマン」が大ヒットした。こちらの北米興収総額は4億1,200万ドル。DCのスーパーヒーロー映画の中では、史上トップの成績だ。今、ここでまた「キャプテン・マーベル」が成功したことで、ハリウッドの古い常識は、ダブルパンチを受けることになっている。

 ハリウッドのアクション映画の主役は、従来、必ず白人の男だった。女性に求められていたのは、スクリーンに華を添えること。「そうでないと観客が見にこない」というのが作り手の言い訳だったが、実際のところ、そう思っていたのは決定権をもつスーツを着た白人男たちである。彼らが見たいのは、自分を重ねられる男(だから男はある程度歳をとっていてもいい)が暴れ回り、世界を救う映画。そのそばには、若くて美しい女性にいてほしい。女を救うのはいいが、逆に女に救ってもらうなど、考えられないことだった。

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 だが、観客は必ずしもそう思っていたわけではない。時代の流れの中で、メディアからも、そういう声は強く聞かれるようになってきていた。それでもマーベルは、そこに行くにあたり、相当に用心深く挑んでいる。「アイアンマン」以来11年にわたって世界的ブランドを築き上げてきた彼らが、黒人を前面に押し出すという賭けに出たのは、昨年のこと。その映画「ブラックパンサー」は、それまで全作品で首位を飾ったあげくに負ったリスクだったのである。

 その次にようやくこの女性ヒーローを出す上では、公開日を「アベンジャーズ/エンドゲーム」の直前に据えた。来月公開される「〜エンドゲーム」にキャプテン・マーベルのキャラクターが出てくるのはわかっていることで、ファンならば絶対見に来るだろうという目論見だ。実際、「ワンダーウーマン」のオープニング週末では観客の52%が女性だったのに対し、「キャプテン・マーベル」は男性が55%だった。おそらく、彼らの多くは、女性が主役の映画を応援したかったというより、「〜エンドゲーム」のヒントを少しでも得たかったのだろう。

ヒロインに、男はいてもいなくてもいい

 もっとも、この公開日には、正しい表向きの理由もある。北米公開日の3月8日は、国際女性デーだ。一方で、「ブラックパンサー」は、黒人歴史月間である2月に公開されている。それが純粋な誠意だったのか、単なるマーケティングだったのかは、今となってはもはや関係ない。「ブラックパンサー」はスーパーヒーロー映画として初めてオスカー作品部門に候補入りする快挙を果たしたし、「キャプテン・マーベル」もまた、観客からも、批評家からも、高い評価を受けた。大事なのは、そうやって作品が愛されたことだ。

 実際、女性の目から見て、「ワンダーウーマン」同様、「キャプテン・マーベル」も、とてもしっくりくる。「ワンダーウーマン」は女性監督、「キャプテン・マーベル」は男性と女性のコンビが監督で、女性の視点が生きていることが、その最大の要因だろう。「キャプテン・マーベル」は、恋愛要素がまったく出てこないのも良い。映画ではあまりないだけで、現実の社会においては、社会で活躍する女性はいつも恋をしているわけではないのだから、それはごく自然である。一方で、「ワンダーウーマン」は、あの純粋な初恋のストーリーが、とても良かった。つまり、ヒロインに男はいてもいなくてもいいということ。そこがないと女性は完結しないわけではない。世の中のリアルに、ハリウッドはやっと追いつきつつあるのだ。

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 この新しい常識がこれからますます主流になっていくことは、十分期待できる。これからも、女性監督による女性が主役のアクション映画がいくつも控えているのだ。たとえば、今年11月にはエリザベス・バンクスが監督するリブート版「チャーリーズ・エンジェル」があるし、来年2月にはアジア系の新人キャシー・ヤンが手がけるマーゴット・ロビー主演の「Birds of Prey (And the Fabulous Emancipation of One Harley Quinn)」がある。その4ヶ月後に公開の「ワンダーウーマン」続編では、またもやパティ・ジェンキンスが監督をになう。

 お姫様が王子様に救ってもらうのを待っていたのは、もう昔の話。これからの時代は、白馬に乗ってやってくる人が男のこともあれば、女のこともある。それは、男性にとっても決して悪いことではないはずだ。いつだって救う側でいなくていいのは、むしろ気楽ではないか?

「キャプテン・マーベル」は15日(金)より全国ロードショー。

場面写真:2019 Marvel Studios All rights reserved.

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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