アクションで鳴らす武田梨奈が恋愛映画に初主演 「お姫様扱いされてアラサーで胸キュンがわかって(笑)」
空手仕込みのアクション女優として名を馳せつつ、『ワカコ酒』などで役幅を広げてきた武田梨奈が、恋愛アプリゲームから派生した映画『ナポレオンと私』に主演した。人生迷子のアラサーOLが、スマホ画面から現れたゲームのイケメンキャラクターと同居生活を始める妄想系ラブストーリー。女性の共感を呼びそうな等身大の演技を見せている。一方、アクション映画への想いは今も強まるばかりだという。
20代になってからラブコメを観始めました
――『ナポレオンと私』で演じた春子が好きなロマンチックコメディは、武田さんは観ますか?
武田 幼い頃はアクション映画だったり、王道の『グーニーズ』とか『スタンド・バイ・ミー』とか、どちらかというと男の子が好むような作品を観て育ちました。このお仕事を始めて20代に入ってから、ラブコメ映画をよく観るようになりました。
――そういうジャンルで好きな作品というと?
武田 いっぱいありますけど、『ホリデイ』は現実から非現実に持っていく話で、面白かったです。
――春子が挙げていた『ローマの休日』や『ブリジット・ジョーンズの日記』とかは?
武田 オードリー・ヘップバーンが大好きで、『ローマの休日』とか『ティファニーで朝食を』とかいろいろ観ています。あと、真逆のタイプですけど、マリリン・モンローにも大人になってからハマりました。あの絶妙な色気。歌って踊るシーンで、声から歌い方まで色気が溢れ出て、ワンシチュエーションで魅了できるのはすごいなと。今の私には無理ですけど、いつかああいう役もやれたらいいなと思っています。
――もともと影響を受けたのは、ジャッキー・チェン作品や『ベスト・キッド』だったんですよね?
武田 そうですね。父が映画好きで、まず『ダイ・ハード』や(シルベスター・)スタローン作品から、アクションやアドベンチャーものを観てました。
――『ナポレオンと私』に出てくるような恋愛ゲームには、馴染みはありました?
武田 やったことはなかったです。この作品のお話をいただいてから、『イケメンヴァンパイア』を始めて、「こんな世界があったんだ!」と思いました。ドキドキするのは現実と同じ感覚で、映画の中で春子の親友のいっちゃんが言っていた通り、決して相手と会えなくても裏切られることはなくて、愛を一生与えてくれる。携帯を開けば傍にいて支えてくれる存在なんですよね。私が今後落ち込んで、「誰もわかってくれない」と感じたときは、アプリを開くだろうなと思うくらいでした(笑)。
わかっていてもうまくいかないのは共感します
――春子は武田さん自身との距離感でいうと、遠かった感じですか?
武田 どちらかというと近かったです。年齢も28歳で、撮影当時の私は29歳。女友だちとの会話も変わってきてました。他愛のない話をしていたのが、気づくと仕事や結婚のこと、将来のことを語り合うようになっていて。いっちゃんと春子のような会話も、日常でよくあると思います。
――でも、武田さんは人生迷子にはなっていませんよね?
武田 自分のやりたいこと、目指していることは明確にありますけど、その道のりではずっと迷子というか。常に葛藤してますし、転んでは立ち上がる感じです。人生に平坦な道はないことは十分にわかったので、それすら楽しんで歩んでいます。
――前半の春子の、「どう頑張ったらいいのか、どうしたら幸せになれるのか、わからなくなってきちゃって……」とドヨーンとしている感覚もわかりました?
武田 そうですね。いっちゃんとしゃべっていたとき、途中から外を見て話が頭に入ってこない感じは、実際にある気がしました。「わかっているけど、うまくいかないんだよ」というところで、共感できる人が多いんじゃないかと。だから、作り込むより等身大の女性として演技をして、そういう空気を出せればいいなと思いました。
現場でドキドキしたのをそのまま出そうと
人気の恋愛ゲームアプリ『イケメンシリーズ』から派生したオリジナルストーリーの『ナポレオンと私』。WEB制作会社で働く28歳の大原春子(武田)は、恋愛から数年遠ざかって、憧れの先輩も高嶺の花。寂しさを紛らわすように恋愛ゲームをインストールすると、画面の中で目に飛び込んだナポレオンというキャラクターが部屋に現れた。
――武田さんにとって初めてのファンタジー系の恋愛映画とのことですが、こうした作品ならではの演技の仕方もありました?
武田 今まで経験したことがない胸キュンポイントが、いくつかありました。頭をポンポンされたり、ほっぺたをキュッとつねられたり。私はされる側なので、その場での驚きやキュンや顔がパーッと熱くなる感覚を、お芝居で出したいというのがありました。タイトルも『ナポレオンと私』で、女性は自分と照らし合わせて観ると思うので、共感してもらえないといけないのは今回特に意識しました。
――演技プランを立てる感じではなくて?
武田 あまり作り込まないようにしました。監督やナポレオン役の濱(正悟)さんたちは「どうする?」と話し合ってましたけど、私はあえて深入りせず、どう来るかドキドキしながら現場にいました。
――頭ポンポンとかは、イチ女性として憧れではありますか?
武田 昔はそんなふうに思わなかったんですけど、今はキュンキュンするかもしれませんね(笑)。
――強いイメージの武田さんでも?
武田 だからこそかもしれません。私は強いと思われていて、「武田なら大丈夫だよね」という感じで、日常でそういうことをされる機会がないんです。今回はまるまるお姫様扱いをしてもらえる役で、「キュンとはこういうことか」というのがありました。
――クライマックスでは涙しながら、ナポレオンに自分の想いを伝えるシーンがありました。
武田 台本には泣くと書いてあっても、「ここでこう泣こう」とか、あまり考えないようにしました。本番では感情を込めて想いを告白していた中で、だんだん涙をこらえられなくなって。そこでパッとナポの顔を見たら、すごくやさしい眼差しで「わかっているよ」というように見守ってくれていたので、ああいう泣き方になりました。
アクション作品が数年途絶えて足踏みを感じました
――武田さん自身は、映画公開前の6月に30歳を迎えました。昨年9月にブログを卒業ということで、最後の投稿に「二十代のうちにやり遂げたい事も見つけました」とありましたが、やり遂げられたんですか?
武田 そのときにやり遂げたいと思っていたのはアクション作品を残すことで、本当は5月に香港で撮影するはずだったんです。でも、コロナの影響で延期になってしまって……。
――ツイッターに書いてましたね。
武田 去年の12月にも、決まっていた別の海外作品が延びてしまったり。そういう状況が続いたので、20代のうちに実現することはできませんでした。でも、29歳になってから、海外でのお仕事の案件が急激に増えたんです。
――昨年公開の『いざなぎ暮れた。』が海外の映画祭でいろいろ賞を獲ったりもしました。
武田 そういうこともあって、海の向こうで観てくださった方がちゃんといたんだと再確認できました。それが自信に繋がって、30代では海外での活動をもっと増やしていけたらと思っています。
――さっきのブログでは、「ここ数年は自分の中で足踏み状態が続いていました」ともありました。仕事は途切れていませんでしたが、マンネリ感があったりしたんですか?
武田 マンネリも全然なくて、いろいろな現場に行かせていただいて、すごく刺激的でした。ただ、アクション作品に携わる機会が途絶えていたのが、足踏みに感じていて。記者の方に「もうアクションはやらないんですね」と言われたりもしました。
――確かに、アクションからは卒業する方向に見えていました。
武田 そんなつもりはまったくなくて、日々稽古もしていますし、アクション監督のところにも出向いて、いろいろ教えていただいています。アクション作品に対する想いはすごく強くて、体作りも含め、常に準備はできている状態だったんです。でも、この数年、なかなかお仕事とリンクしませんでした。
海外での評価でやるべきことが見つかりました
――アクション抜きでも女優として評価された裏返しでもあるんでしょうけど、武田さんの中では満ち足りない部分があったと。
武田 そうですね。それを一番実感したのが、おととし韓国の映画祭で、アクション映画の国際会議があって。各国の監督や俳優さんたちが集まって、アクションの未来やそれぞれの国の現状を語り合う貴重な会で、私は日本代表として呼んでいただいたんです。最近はアクションの仕事をほとんどしてなかったのに、なぜ呼んでもらえたのかお聞きしたら、2009年に公開された『ハイキック・ガール!』を、皆さんがすごく評価してくださっていて。
――10年前の作品が語り継がれていたんですね。
武田 私が16歳のときにオーディションを受けた作品で、何年も覚えていただいていたのは本当にうれしかったです。ただ、あの場で「胸を張って発言をしていいのかな?」という気持ちもありました。
――最新のアクション作品がなかっただけに。
武田 海外の皆さんに言われたのは、日本には千葉真一さん、倉田保昭さん、真田広之さん、志穂美悦子さんとアクションスターがたくさんいたのに「何で今はいないの?」と。「リナがなるんだよ」と背中を押されました。世界的に活躍されている方たちが、お会いしたこともない私を知ってくださっていて。「観てもらっていたんだ」と感動して、自分のやるべきことが見つかった気がしました。
アクションのある・なしで分けていません
――武田さんの中で自分の代表作は『ワカコ酒』などですか?
武田 カッコつけた言い方になりますけど、いつもチャップリンの名言のように「次の作品が最高傑作だ」という気持ちでやってはいます。でも、私のことを広く知っていただくきっかけとなった作品は、『ワカコ酒』や『ハイキック・ガール!』ですね。
――そうした作品は有名ですが、たとえば主役ではなかったけど、自分の女優人生で大きかったような作品もありますか?
武田 お芝居への価値観や意識が一気に変わったのは『木屋町DARUMA』という映画です(2015年公開)。榊英雄監督で、遠藤憲一さん、三浦誠己さん、寺島進さんと先輩方の中で、ヒロインとして呼んでいただいたんですけど、現場にいるのが苦しいくらい、すごく追い込まれました。というか、追い込んでくださいました。
――四肢を失くしたヤクザが主人公で、武田さんは父親の借金のカタに風俗店に売り飛ばされる女子高生の役でした。
武田 まだお芝居の経験が浅かったこともあって、演じていると自分なのか役なのか、わからなくなりました。撮影中はホテル生活で、部屋に帰っても、ごはんが食べられなくて。そういう感覚は初めてでした。激しい描写もあって、本当に現場で追い込んでいただいたので、すべてを捨てたいと思ったくらいです。クランクアップしたあとも役をずっと引きずって、お芝居への向き合い方がすごく変わりました。
――武田さんにとって、アクション作品とそれ以外の作品は別ものですか? 根底は同じですか?
武田 最初は自分の中で、アクションがある作品・ない作品と分けていた時期がありましたけど、今はまったく、そういうふうには考えません。たとえば『ワカコ酒』の撮影でも、お料理が来て、台本通りにひと口食べたら、「熱っ!」と出ちゃったりするときがあるんです。そういうリアクションはアクションに似ていると思います。段取りは決まっていても、人と人や人とモノで向き合えば、やってみないとわからなくて。
――殴ったり蹴ったりはしなくても。
武田 はい。あと、数年前に『Yangon Runway』という映画をミャンマーで撮ったとき、千葉真一さんがお父さん役だったんですね。千葉さんは「アクション俳優という言い方は、僕はよくわからない」とおっしゃってました。「だって、海外では『ヨーイ、アクション』から撮影が始まるでしょう。アクション=お芝居なんだよ」というお話で、すごく身に染みました。
理想のタイプは家族も大切にしてくれる人です
――アラサーといわれる年代になってから、何かの好みとか、変わってきたことはありますか?
武田 昔の自分の写真を見ると「なんてダサい格好をしているんだろう?」と思うほど(笑)、ファッションには疎かったんです。興味がなくて、動ければ何でもいいくらいでしたけど、今やファッションやメイクがすごく楽しいと思えるようになりました。
――今になって(笑)?
武田 本当にそうです。女性って楽しいんだと、アラサーになってから気づきました(笑)。
――空手の稽古をしていて、体力が落ちたと感じたりはしませんか?
武田 それはまったくないんですけど、食事には気をつかうようになりました。私は爆食するタイプで、ラーメンにライスに餃子とか当たり前だったんです(笑)。でも、健康診断で「もっとバランスの良い食事を摂りなさい」と怒られてから、野菜をたくさん食べるようになりました。
――30代に仕事以外で成し遂げたいこともありますか?
武田 結婚に憧れはあります。何歳までにしたいとかはないんですけど。あと、プライベートでの目標としては、実家を建て直してあげたいです。私は家族が大好きで、一緒にいる時間を大切にしたいので、新しい家はひとつの夢です。
――結婚に関しては、相手の理想もありますか?
武田 それこそ、私の家族も大切にしてくれる人がいいですね。
――映画のナポレオンのような王子様系は?
武田 昔は俺様系の方がカッコイイと思っていた時期がありました。『花より男子』の道明寺司みたいな方が素敵だなと。でも、男性のタイプは結構変わったかもしれません。私以上に私の家族のことを考えてくれる人が理想です。
――落ち着きを求めるようになってきたんですか?
武田 そうですね。やっぱり、こういうお仕事をしているので、私生活は安定したいなというのがあります。
Profile
武田梨奈(たけだ・りな)
1991年6月15日生まれ、神奈川県出身。
2009年に映画『ハイキック・ガール!』で主演デビュー。映画『デッド寿司』でテキサス『Fantastic Film Festival 2012』の主演女優賞、『組谷物語-おくのひと-』で第26回東京国際映画祭『アジアの風』のスペシャルメンションなどを受賞。その他の主な出演作は映画『進撃の巨人』、『海すずめ』、『いざなぎ暮れた。』、ドラマ『ワカコ酒』など。ラジオ『武田梨奈のこだわりな時間』(ラジオ関西・ラジオNIKKEI)でパーソナリティ。
『ナポレオンと私』
池袋HUMAXシネマズほか全国公開中