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東京証券取引所でシステム障害により、株式の全銘柄の売買が終日停止という異例の事態が発生

久保田博幸金融アナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

 10月1日、日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所で、株式の全銘柄の売買が停止する大規模なトラブルが発生した。日本取引所グループの広報・IR部からは「現時点で障害の原因や取引の再開時期は不明だ」との説明があった模様(1日付日本経済新聞電子版)。

 「サイバー攻撃ではないとみられる」との説明もあったようで、外部からのシステムへの攻撃等ではないようである。ハードの問題、つまり機器の故障の可能性があり、障害が起きた機器からバックアップへの切り替えが正常に行われなかったためのようである。取引は終日停止された。終日の取引停止は極めて異例となる。

 証券取引所はまさに資本主義の象徴とも言うべき存在であり、株式市場で売買が停止されるというのは、よほどのことがない限り起こらなかったし、起きてはいけないことでもあった。

 日本取引所グループのサイトにある「株式取引所開設140周年」をみると、どのような際に取引所売買が停止されていたのかを確認できる。

 「第一次世界大戦により、日本経済は輸出の急増や金融緩和を背景に急速な成長を示す一方で1920年(大正9年)3月15日には大量の売り物から空前の大暴落となり2日間立会を停止」

 上記は米国を発端とした世界恐慌の余波を受けていたとみられる。

 「9月1日の関東大震災では、東京株式取引所の建物も全焼し、兜町一帯が焼野原となった中、10月27日から焼け跡の天幕内で株式の現物取引を開始しました」

 関東大震災で東証の建物そのものが焼失したため、取引は停止せざるを得なかったが、それでも10月27日に再開していたというのもすごいことである。

 「第二次世界大戦中も取引所での株式売買は続けられました。しかし、戦局が悪いという噂が次第に広がると、株価は下落をはじめ、1945年(昭和20年)3月の東京大空襲の後は、政府が無制限に株価を下支えする「官製相場」となりました。そして、同年8月10日、広島と長崎に原子爆弾が投下されたとの情報が入ると市場は停止し、それ以降、1949年(昭和24年)に取引が再開されるまで、3年9か月の間閉鎖が続きました」

 太平洋戦争が始まっても取引所で売買は続いていた。しかし、広島と長崎に原子爆弾が投下された8月10日から取引は停止された。再開に向けては関係者がGHQに積極的に働きかけた結果、1949年に再開された。

 「1996年(平成8年)末に打ち出された金融ビッグバンにより、様々な金融制度改革が行われました。このなかで、東京証券取引所は売買執行の迅速化やコスト削減、効率化を図ることを目的にすべての取引をシステムに移行し、4月30日、株券売買立会場を閉場しました。7月には大阪証券取引所も立会場を廃止しました。」

 証券取引所でのシステム化は徐々に進められ、すべての取引がシステムに移行された。これにより、戦争などの何かしらの外部要因による停止だけではなく、システムが原因の停止の可能性が加わった。

 そのシステムが影響しての取引停止となったのは、2005年11月1日に事例があった。東証の株式におけるシステム障害で、史上初めて全銘柄売買停止となったのである。株式の全銘柄の取引が約3時間にわたって止まり、13時30分に取引が再開された 

 2006年1月18日には、旧ライブドアに対する強制捜査をきっかけに、株式市場全体に個人投資家などからの大量の注文が殺到したため、午後になって東証の売買システムの処理可能件数である450万件に迫った事から、異例の「全銘柄取引停止」措置がとられた。

 そして、2018年10月9日には、特定の業者から東証arrowhead に対して大量の通信電文が送信され、その影響で高負荷状態が発生し、これによるシステム障害により大手証券会社などで顧客からの注文を一時停止するトラブルが発生していた。

 東京証券取引所は、ニューヨークやロンドンなどと並ぶ世界有数の取引所である。何が起きても取引は止めないというのが原則であろう。それも過去の歴史からもわかる。それだけに取引停止というのは、内外の投資家にも影響が及ぶことから、大きな問題となる。早期に原因を突き止めて、再開を願うばかりである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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