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債券先物のチーペストが市場で消失、日銀の大規模緩和の副作用、でもたぶん大丈夫、価格への影響は限定か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:アフロ)

 日銀の大規模緩和の副作用となりそうな事態が起きる可能性が指摘されている。それは長期国債先物カ(以下、債券先物)のチーペスト銘柄にかかわるものである。

 債券先物は反対売買だけでなく、現物での決済(現引き・現渡し)ができるため、債券先物の価格は受渡適格銘柄の中で 最も割安なもの(チーペスト)に連動する。

 国債の利回りが利率6%よりも低い場合、利率が高くて残存期間が短い債券ほどチーペストになりやすい。つまり残存7年の10年国債がチーペストになるケースがほとんどとなる。債券先物は残存7年近辺の10年国債の価格に連動するということになる。

 問題はそのチーペスト銘柄を日銀が大量に保有していることで、債券先物の価格形成に影響するとともに、受け渡しにも影響するのではとの懸念である。

 日銀は2022年12月、ヘッジファンドなどの売りに対抗するため、無制限毎営業日連続の指値オペを行った。

 日銀は無制限毎営業日連続の指値オペの対象に直近発行された10年国債の3銘柄に加え、債券先物のチーペスト銘柄まで加えていた。その結果、発行残高に占める日銀の保有比率が、369回111.24%、368回が103.55%、367回が106.28%、そして当時の先物のチーペストの358回が114.76%といずれも100%を超えてしまったのである。

 現在危惧されているのは366回債であり、こちらも日銀が市中発行額の95%を保有し、市中流通量は4000億円ちょっととなっている。それが12月に中心限月となる2023年3月限のチーペストになる。

 ただし、個人的にはこれによる影響はそれほど大きくはないと思っている。

 実際に当時のチーペスト銘柄358回債の日銀の保有比率が100%を超える異常事態となったが、それによって債券先物が極端な動きとはならなかった。これは8000億円程度の大幅な減額措置(日銀から借りた国債の返済を免除される)が行われたためともされるが、そうであろうか。

 たしかに債券先物はチーペストと連動するが、その影響を直接受けるのは現引き・現渡しをする際となる。債券先物は常にチーペストにぴったり連動しているわけではなく、あくまでチーペストの価格は参考データにすぎない。現実にチーペストの売買が毎日、先物のごとく出来ているわけでもない。

 先物の現引き・現渡しの買う量は取引最終日に残った建玉残となる。その建玉残はここ1年でみても、2023年3月限(チーペスト358回)が5388億円となっていたが、2022年9月限から2023年9月限のそのほかの銘柄はすべて4000億円以下となっていた。

 これらも減額措置とか流動性供給入札の追加発行などで十分にカバーできるのではないかと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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