日銀総裁の「時間的な余裕はある」という表現は封印か、12月の決定会合で追加利上げの可能性
日銀は31日の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を全員一致で決定した。
会合後の記者会見で、植田総裁は米国経済の下振れリスクが後退しているとして、今後、経済・物価情勢の見極めなどで「時間的な余裕はある」という表現は使わないと説明した。
7月の金融政策決定会合では政策金利である無担保コール翌日物の誘導目標を0.25%に引き上げた、今後の追加利上げの可能性を示唆した。そして同日のFOMCでは金融政策は現状維持としたが、9月の利下げの可能性を示唆した。
これまでの日米の中央銀行の金融政策が、それぞれ逆方向に動くことが示された。これはつまり政策金利でみれば、日米金利差の今後の縮小が意識された。
これもひとつのきっかけとなり、米長期金利の低下とともに円高ドル安に拍車が掛かった。
8月2日に発表された7月の雇用統計によると、失業率は前月から0.2ポイント上昇し、4.3%となった。過去3か月の平均失業率は4.1%となり、この水準は「サーム・ルール」を0.1ポイント上回る結果となった。
「サーム・ルール」とは元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が見いだしたものであり、失業率の3か月移動平均が、過去12カ月の最低値から0.5ポイント以上上昇した場合、米国は既にリセッション入りしているというものである。
8月5日の東京株式市場では日経平均が4451円安となり、ブラックマンデーの下げ幅を上回って過去最大の下げ幅となった。この日のドル円は141円台を付けるなど急速な円高ドル安も進行し、日本国債は大きく買われた。
米国経済がリセッション入りするのではとの警戒感も影響していたとみられる。しかし、その後発表された米経済指標はむしろ好調なものが多くなり、FRBの大幅な利下げ観測はその後、後退することになる。
来週の6日、7日にFOMCが開催されるが、0.25%の利下げもしくは利下げそのものがスキップされる可能性が出てきた。
8月以降の金融市場の動揺などをみて、植田総裁は「時間的な余裕はある」という表現を使い、追加利上げに慎重かとみられるような発言をしてきた。しかし、それを封印することで、あらためて追加利上げの可能性を市場に意識させたものといえる。
私は引き続き、12月の金融政策決定会合での政策金利0.5%への利上げが決定されると予想している。