長期国債先物(債券先物)の基礎知識
長期国債先物取引で売買されるのは、額面100円、利率が6%で残存期間が10年の標準物と呼ばれる国債である。
6%という利率は、東証に債券先物が上場された1985年当時の長期国債の発行状況などを踏まえて決定された。当時の長期金利は1980年に10%近辺にあったものが徐々に低下し、1985年当時は6%台となっていた。
債券先物上場後、日本の長期金利は低下傾向となり、標準物の利率は、実際に発行される10年債の利率と大きく乖離している。そこで、標準物の利率を引き下げようとの動きがあったが「標準物利率の引き下げによって表面利率が他の銘柄に比べ極めて低い銘柄が複数限月にわたり最割安銘柄になった場合における長期国債先物取引の流動性への影響に懸念がある等の理由により」(東京証券取引所『国債先物取引市場創設15周年を迎えて』より)、変更されずに現在に至っている。
10年という残存期間は、1985年当時の国債発行額のうち期間10年の国債発行量がたいへん多く、現在でも長期金利といえば期間10年の国債の利回りを指すように、国債の中心的な役割を占めていたためである。
債券先物の決済方法には二種類ある。ひとつが差金決済と呼ばれるもので、これは債券先物を反対売買によって、売値と買値の差額で決済する方法である。現金の授受つまり受け渡しは、反対売買を行った翌営業日に行われる。
債券先物の決済方法として現引き・現渡しによる方法もある。債券先物取引において、売買最終日までに反対売買(転売又は買い戻し)によって決済されなかった取引は、受渡決済期日(各限月20日)に、現物国債の受取りや引渡しによって決済する仕組みになっている。
売り方は手持ちの現物国債を引渡し、代金を受取る(現渡し)。買い方は代金を支払うことによって現物債を引き取る(現引き)。
決済の対象となることの出来る現物国債には条件があり、この条件を満たすものを受渡適格銘柄と呼んでいる。
長期国債先物の場合における受渡適格銘柄とは、受渡決済期日に残存期間が7年以上11年未満である10年利付国債である。
債券先物は標準物という架空の債券の取引となっているため、この標準物と受渡適格銘柄の価値が同一となるような交換比率を求める必要が出てくる。これを交換比率(コンバージョン・ファクター、CF)と呼び、標準物を1としたときの受渡適格銘柄の決済日における現在価値であらわされる。コンバージョン・ファクターは、一定の前提をおいて複利方式により求められる標準物の将来価値を基準として個々の受渡適格銘柄の将来価値を比較することによって算出される。
現物の決済ができるため、債券先物の価格はこの受け渡し適格銘柄の中で、最も割安なもの(チーペストと呼ばれる)に連動する。CFの大小は、利率と残存期間によって決定される。債券の利回りが仮想債券の利率6%よりも低い場合、利率が高くて残存期間が短い債券ほど、CFは大きくなるため、チーペストになりやすい。逆に、債券の利回りが6%よりも高い場合、利率が低くて残存期間が長い債券ほどCFは大きくなるため、チーペストになりやすい。
このように債券の利回りが仮想債券の利率6%よりも低い場合には残存期間が最も短いもの、つまり7年残存の国債が多くなる。このため長期国債先物取引は10年国債の先物取引だが、実際には残存10年の国債でなく残存7年の国債に連動する。