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「ゴーストバスターズ」の黒人女優がドレスを貸してもらえなかったのは、差別か、彼女自身の過ちか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
リブート版「ゴーストバスターズ」に出演するレスリー・ジョーンズ(写真:REX FEATURES/アフロ)

女性キャストでリブートされる「ゴーストバスターズ」が、新たな論議を呼んでいる。4人の主要キャストのうち唯一の黒人で、大柄な体型のレスリー・ジョーンズ(48)が、「どのデザイナーも、私にL.A.プレミアのためのドレスを貸してくれない」と、ツィッターで不満を漏らしたのだ。

ハリウッド女優がレッドカーペットで着るドレスはブランドから借りたものというのは、もはや良く知られた事実。人気の頂点にある美しい女優が自分のドレスを着てくれれば最高の宣伝になるため、デザイナーはこぞって最新の服を提供する。もちろん、どの女優にも平等な選択肢を与えられるわけではないというのも、暗黙に理解されていることだったが、このジョーンズの告白は、衝撃だった。ジョーンズのツィートには現在までに4,500人が「いいね」を押し、1,400以上のリツイートがなされている。

このツィートを見て、すぐに米若手デザイナーのクリスチャン・シリアーノが名乗りを上げ、2日後には、ジョーンズとシリアーノが一緒にポーズを取る写真がツィートされた。ドウェイン・ジョンソンは、「品があって頭の良い人だよね。クリスチャン・シリアーノ、僕の友達を助けてくれてありがとう」と、シリアーノを絶賛するツィートをしている。

ジョーンズが体験したことは、ファッション界の人種差別、体型差別、年齢差別を象徴するものではという指摘が出る一方で、ファッション関係者の中からは、ジョーンズを非難する声も出た。セレブリティのスタイリストを務めるジェシカ・パスターは、「The Hollywood Reporter」に対して、「すべてはレスリーのせい」と、ぴしゃりと言い放っている。通常、ブランドのサンプルサイズはアメリカサイズの4で、幅広いサイズを揃えているわけではないという事実をふまえ、「彼女は、プレミアの4、5ヶ月前に、『私はサンプルサイズじゃないんだから、早くデザイナーたちに相談するか、自分で買わないといけない』と考えるべきだった。デザイナーを責めるべきじゃない」と、彼女の過ちを指摘している。別のスタイリスト、ジーン・ヤングも、「幅広いサイズをサンプル用に作るブランドなんて、ない。そんなお金は誰も持っていない。超大物デザイナーでもそう。5,000ドルや1万ドルもするドレスを作って、誰も着なかったら、そのブランドは潰れてしまうかもしれない」と、背景にあるのは差別ではなく経済的理由だと述べた。

これらスタイリストの説明は、さらに火に油を注ぐことになっている。

ソーシャルメディアには、「サンプルサイズではないから4、5ヶ月前に動くべきだったとレスリーを責めるなんて、ありえない。彼女はコメディエンヌで、ファッション業界の人じゃないのよ。共演者と同じように、自分もドレスを用意してもらえるだろうと普通に思っていたはず。自分の体型なんて、あまり考えなかったでしょう。それは当然じゃない?」「特別のビーズを縫い付けたりするのでなければ、ドレスを作るのに数ヶ月なんかかからない。痩せた女優なら当然のようにタダでドレスを貸してもらえるのに、レスリーが同じことを聞いたら、どうして責められるの?」「これがニコール・キッドマンなら、ぎりぎりでもどうにかしてくれたんだよね」と言ったコメントが炎上している。シリアーノ自身は、「すべてのブランドが自分のアトリエを持っているわけじゃないし、ドレスを一から作ってあげられるお金はないかもしれない。僕だって、毎回無料でドレスを作ってあげられるだけの予算はもっていない」と認めながらも、「僕はレスリーの大ファンで、彼女のために新しくてエキサイティングなドレスを作ってあげたい。僕は、年齢や体型に関係なく、すべての女性をサポートする」と語った。いずれにしても、今月9日のプレミアで、ジョーンズのドレスが誰のにも増して注目を集めることになるのは、間違いない。

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ポール・フェイグ(『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』)が監督する新しい「ゴーストバスターズ」は、企画の発表以来、さまざまな論議を巻き起こしてきた。キャスト全員を女性のコメディアンにするという画期的なアイデアは、女性のための良い役が少ないことが問題視されているハリウッドで、一部から絶賛された一方、抵抗を感じたオリジナルのファンも少なくなかったようだ。予告編は、YouTube史上、最も嫌われており、「フェミニストに傑作を台無しにされた」などのコメントが書き込まれている。また、4人の主人公のうち、唯一科学者ではない女性を、唯一の黒人女優であるジョーンズが演じていることも、人種差別ではないかと非難された(しかし、この役はもともとメリッサ・マッカーシーが演じるはずだったということが、すぐ後に、明らかにされている。)

コメディ映画の監督でプロデューサーのジャッド・アパトーは、uproxx.comのインタビューで、この「ゴーストバスターズ」を批判している人たちの多くはドナルド・トランプの支持者だろうと語った。「絶対そうだと思うよ。優秀な監督であるポール・フェイグと、地上で最もファニーな4人が作るんだから、僕はすごく楽しみにしている」と付け加えている。フェイグ本人は、先月、シンガポールで行われた記者会見で、「これはとても愛されてきたシリーズ物で、人は強い情熱を持っている。それを誰かがリブートしようとしていると聞いて、不安になるのは当然だと思う。でも、実際に映画を見て判断してくださいとお願いしたい。僕は、すばらしいキャストを使って、特別な映画を作ったと思っている。人は好きなことを言うものだが、僕は、作品自体に語らせたい」と語った。フェイグと共に会見に参加したマッカーシーも、「まだ見ていないものをどうして批判できるのかしら」と疑問を投げかけた上で、「いずれにせよ、そういう人たちはすごく少数派だと思う」と語っている。

フェイグの「ゴーストバスターズ」には、ほかに、クリステン・ウィグ、ケイト・マッキノン、クリス・ヘムズワースらが出演する。北米公開は7月15日、日本公開は8月19日。

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L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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