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医療逼迫で苦しんだコロナ病棟の現在は コロナ禍前の病院の風景は戻るのか?

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

私の勤務する病院は、新型コロナの軽症中等症病床を有しており、流行時には2病棟をつぶして60床まで運用していました。しかし、現在の入院患者さんは3~5人くらいと極めて低い水準で推移しており、オミクロン株が台頭してからというもの、コロナ病棟がてんてこ舞いということはなくなりました。

医療逼迫が昔のできごとのよう

今でも多くのコロナ病棟は稼働した状態ですが、新規の入院患者数が減っており、病床規模を縮小している病院が多いと思います。

現在、新型コロナの新規陽性者数は全国的に1日2~3万人報告されていますが(図1)、重症者は全国で約100人と極めて低い水準です(図2)。

図1. 新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)
図1. 新型コロナ新規陽性者数(筆者作成)

図2. 新型コロナ重症患者数(筆者作成)
図2. 新型コロナ重症患者数(筆者作成)

コロナ病棟は、関西は第4波、関東は第5波がとても忙しく、その他の通常診療が回らなくなるほどでした。重症病床に新型コロナ患者さんを受け入れてもらえなかっただけでなく(1)、救急医療やがん診療などの必要とされる医療さえ逼迫しました。

重症度が低いオミクロン株が主体の第6波は、第4波・5波よりも比較的マイルドではあったものの、3回目の新型コロナワクチン接種が間に合わなかった高齢者の感染者が多く、過去最多の死者を出す波となってしまいました。

<過去参考記事>

■第4波:大阪府コロナ第4波、医療現場はどうなっているのか? 医療逼迫の原因、対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210429-00235077

■第5波:新型コロナが災害級に 関東の医療逼迫が過去最悪(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20210815-00253324

■第6波:大阪が歴史的医療逼迫 現場で何が起こっているのか 講じられている対策は(URL:https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220213-00281823

現在の新型コロナはそこまで悪化しない

上述したように、現在各病院のコロナ病棟に数人だけ患者さんが入院している状況が続いています。オミクロン株になってウイルスが弱毒化したという話もありますが、多くの人がワクチンを接種しているため、個人的にはこれらの合わせ技ではないかと考えています。

ワクチンの効果は経時的に低減することはわかっていますが、少なくとも3回ワクチンを接種している人では、重症化予防効果が高く維持されます(2)。

いずれにしても、左右両方の肺が真っ白という新型コロナ(図3)は本当に見かけなくなりました。これは、コロナ病棟としてはとてもありがたいことです。

図3. 第4~5波でよくみられた両肺が白くなった新型コロナ(患者家族の同意を得て掲載)
図3. 第4~5波でよくみられた両肺が白くなった新型コロナ(患者家族の同意を得て掲載)

現在よくみられるのが、入院時の新型コロナのスクリーニング検査などで陽性になってしまう患者さんです。風邪のような症状がある人もいますが、無症状で同定されることもあります。

入院患者さんが新型コロナ陽性になっても、昔のように病院をひっくり返したような騒ぎになることはなく、感染性がなくなるまでしばらくコロナ病棟に移ってもらっています。酸素飽和度が低くなる中等症以上の患者さんはほとんどいません。

もし現状が常態化すれば、新型コロナの診療規模を縮小して、コロナ前のような通常診療が運用できる施設も多くなると思います。

病院の風景はコロナ禍前に戻るか?

令和4年5月20日に2月分「病院報告」が発表されたので、そのデータを年別にプロットしてみました(3)(図4)。コロナ禍前と比較すると、受診控えの傾向はおさまっておらず、外来・入院患者数が減少したままという構図が見えます。

図4. 1日平均患者数(参考資料3をもとに筆者作成、イラストは看護roo!より使用)
図4. 1日平均患者数(参考資料3をもとに筆者作成、イラストは看護roo!より使用)

また、がん診断例も減っており、「必要な診断・治療が行き届いていない」可能性もあります。特に早期がんが診断されないと、最適な切除時機を逸してしまうため、注意が必要です。

急性期・高度急性期病床では、「新型コロナ患者さんを受け入れのために空床(即応病床)を確保しておく」ということがいまだに必要とされており、非コロナ病床の利用率が低下しています。

地域全体で病院の機能分化を進めることができれば、円滑な新型コロナ対応が可能になるため、自治体の手腕が問われるフェーズにあると考えています。

まとめ

ウイルスの性質上、おそらく収束というのは急にやってくるものではなく、ウィズコロナを経て、いつの間にかやってくるくらいの温度感なのだと思います。

病院の機能をコロナ禍前に戻す取り組みが進み、受診控えが解消されることを願っています。

(参考)

(1) Kurahara Y, et al. Respir Investig. 2021 Nov;59(6):810-818.

(2) Weekly epidemiological update on COVID-19 - 25 May 2022(URL:https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---25-may-2022

(3) 医療施設調査・病院報告(結果の概要)(URL:https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1a.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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