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寒すぎる日本の家〜病気を予防するために今日からできること〜

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:sashimi/イメージマート)

大塚篤司(以下:大塚):今日は医師として建築の専門家の古川さんにお話を聞こうと思ってお伺いしました。よろしくおねがいします。

古川亮太郎(以下:古川):よろしくおねがいします。

大塚:季節によって出やすい皮膚疾患は変わります。冬場は乾燥のせいでかゆみが出現し、病院を受診される患者さんが増えます。夏場は汗でかゆくなり、あせもや湿疹で病院を受診される方が多いです。医者としてできることとしては、「あせもができたら、薬を塗ってください」「乾燥したら、保湿してください」と指導するくらいです。

 もしかしたら、住まいや普段の生活で何か工夫をするだけで、皮膚の状態を良く保てるのかなとは常日頃思っているんですけれども、なかなかそういうお話を聞く機会がないので今日はお伺いしました。

古川:快適で健康に住まう上で大事なポイントは2つ、室内の温度をコントロールすること、そしてしっかりと換気を行うことです。この2つを実現するために欠かせないものが、家の「断熱性」、「気密性」なんです。

大塚:日本の家って寒い印象がありますが、やっぱり断熱は建築する上で何か指針やノウハウがあるんでしょうか。

古川:ここ数年、東日本大震災の辺りから、省エネという観点で断熱性が見直されました。国の指針によってだいぶ変化してきています。

1976年生まれ 古川亮太郎 京都工芸繊維大学大学院造形科学研究科 清水建設株式会社 株式会社中藏 常務取締役 株式会社蔵ホールディングス 取締役 株式会社ライトワン 代表取締役
1976年生まれ 古川亮太郎 京都工芸繊維大学大学院造形科学研究科 清水建設株式会社 株式会社中藏 常務取締役 株式会社蔵ホールディングス 取締役 株式会社ライトワン 代表取締役

古川:省エネの等級が義務化されているんです。ただ、それもビル等の大きな建物に限られていて、私達が住む戸建住宅に関する省エネ性能の義務化というのは残念ながら様々な事情があり先延ばしになりました。ヨーロッパ諸国、アメリカをはじめ、お隣の中国や韓国も住宅の性能基準をはっきり設けています。それもかなり厳しめの。なので世界と比べると、日本の家は本当にまだまだ、、という事になります。

大塚:僕もスイスに住んでいたことがあって、スイスって寒い印象があるんですが家の中は暖かいんです。ヨーロッパの冬って、外は雪が降っていて凍え死にそうな景色なのに、家の中は本当に暖かかったんです。日本に帰ってくると寒くて、寒くて。

古川:それは断熱性による家の温度の問題なんです。

大塚:僕がヨーロッパと日本の寒さの違いで感じたのは、窓際の温度です。日本の窓際はすごく寒く感じます。

古川:実は日本の窓の性能はかなり低いんです。窓は壁や床や天井と比べて一番熱が出入りするところです。冬はせっかく温めた室内の温度も窓からどんどん逃げていきますし、窓ガラスが外の温度で冷やされる事で室内にヒヤっとした空気を拡散します。夏は、性能の悪い窓が外の暑い温度をダイレクトに室内に伝えるため、エアコンをかけても暑い、涼しくならない、ということが起こります。ようやくメーカーがいろいろ作り出しましたが、それでも日本の窓は欧米諸国と比較すると、半分以下くらいの性能です。窓を変えるだけでも室内の温度はだいぶ変わるんじゃないかなと思います。海外だと断熱性が高いのでサッシを木製や樹脂で作ったりするんですが、日本はアルミのことが多いです。ただアルミは熱を伝えやすい素材で触るととても冷たい。で、冬場は結露するんです。今は日本でも樹脂サッシやアルミ樹脂複合サッシを使うようになっています。

出典:諸外国と日本の住宅外皮性能基準比較(HEAT20資料より)
出典:諸外国と日本の住宅外皮性能基準比較(HEAT20資料より)

大塚:家の温度差による健康被害というと、お風呂場などご年配の方だと心配ですよね。

古川:実はヒートショックで年間約1万9千人が亡くなられているんです。この数字は交通事故死亡者数の4倍以上です。亡くなってはいないけども、脳梗塞などで半身不随になった方などを含めると、家の温度差による事故はもっとあるのではないかと思います。このように実は家の中というのはかなり事故が起きる場所なので、安全に過ごすためには温度差をコントロールすることがとても重要です。

大塚:皮膚科の病気の領域でいうと、患者さんにはお風呂上りに薬を塗ってもらうことが多いんです。お風呂を上がったところが寒いと、冬、薬を塗るのも嫌になるんです。だから、もしかするとそこが暖かいと、患者さんの薬を塗るコンプライアンスが上がるのかもしれないな。

古川:しっかり断熱をすると、お風呂場もリビングも温度差が1度2度ぐらいの差になるので、寒くない状態で薬を塗れると思います。

大塚:冬場になるとしもやけの患者さんが増えるんです。寒いところに行っていないのにそういう方は、だいたい家が寒いんです。しもやけというのは、温度が下がって起きる血行障害です。指先まで血がいかないで、ひどい場合はキズになります。例えば膠原病という免疫の病気があって血流が悪い方だと、温度が少し下がるだけでも血流がすぐに途絶えてしまうので、なるべく暖かい環境で、暖かく過ごしてもらいたいんです。そういう意味では、こういった住まいのアドバイスができるといいんですが、いかんせん医者はこういう知識がないもので。自分でも簡単に家の熱をコントロールするためにできることはありますか。

古川:簡単なのは、今あるアルミサッシの内側にもう一つ窓を付けるような施工です。

大塚:それはすぐ簡単にやっていただけるものなんですか。

古川:はい、簡単にできます。あとは本当に簡単なものですが、どこにでもあるプチプチした断熱材をただ窓の内側に貼っておくだけでも、断熱性は全然違います。多分1,000円とか2,000円ぐらいで買えると思います。

大塚:これはすごく外来で使える知識ですね。しもやけの患者さんなどに「どうしたらいいですか」と聞かれたときに、窓に断熱材を貼ってくださいと。

古川:はい。あとは、夏場は熱中症にならないようにするために、すだれを掛けることです。窓の外側にすだれを掛けることで直射日光と熱を防ぎます。内側に掛けてしまうとただ光を遮っているだけで、どんどん温度は上がってきてしまうんです。

大塚:なるほど。それは間違ってやりそうな気がします。温度による皮膚トラブルは本当に結構あるものなので、医療従事者の方もちゃんとアドバイスできるようにしておくといいですね。

古川:温度の管理も大切ですが、換気もすごく重要なんです。シックハウス症候群というのが有名になったと思うんですが、あれは昔はなかったんです。昔の家は隙間だらけだったので、有害なものが出てきても室内にたまらなかったんですね。大人は室内の空気の57%、重さにすると15kg~20kgを体内に取り込んでいると言われています。そして子どもはその2倍を取り込むんです。

出典:村上周三「住まいと人体-工学的視点から-」
出典:村上周三「住まいと人体-工学的視点から-」

大塚:活動量が多いですもんね。

古川:そうなんです。だからここの空気が悪いと、体に悪いということがよくわかります。

古川:例えば4人家族だと結構な水蒸気が発生します。それが冷たい窓に付くと、やはり結露してカビが生えたりする。この水分を、いかに外に出してあげるか。そこが住まいにとっては重要です。

大塚:そういうカビやダニもアレルギーの原因になるんですよ。ですからやはりカビやダニが繁殖しないように気を付けてもらおうとはするんですが、「じゃあ具体的にどうするの」というところが、僕らは指導が難しくて。

古川:住宅って、第三種換気と言われるものが一番多いんです。穴が開いているところに自然に外の空気が室内に入ってきて、機械で強制的にそれを外に出す、つまり換気扇ですね。ちなみに病院の手術室やクリーンルームなどは、第二種換気といって、強制的に機械で空気を入れて、給気の力を利用し自然に外へ空気を押し出す方式をとっています。ほこりなどが入らないようにしているんです。

大塚:じゃあ多くの住宅は第三種換気なんですね。

古川:そうなんです。ここで換気をするときに、隙間だらけの家だとうまく家全体で換気ができないんですね。図のようにショートサーキットと言って、同じようなところで空気が出入りするだけになってしまいます。

古川氏より提供
古川氏より提供

大塚:なるほど、本当ですね。

古川:そこで大切になってくるのが「気密性」です。気密が高いと、空気が入ってくるところが明確にわかるので、ショートサーキットになることなく、明確に排気ファンを通して空気を交換することができます。空気の通り道は部屋の対角線上にあるのが一番いいと言われていますので、部屋の対角線の下の方からクリーンな空気を入れて、上の方から出すようにします。

大塚:やみくもに窓が開いていればいいという訳じゃないんですね。ちゃんと気密性が高い上で計算された換気をしないと意味がないということですね。

古川:住宅の気密というのはC値と呼ばれるもので表され、国の基準(注)では5.0ということになっています。5.0というと、だいたい100平米ぐらいの延床面積に応じて、ノートくらいの大きさの隙間があるということです。弊社ではそれを0.5以下、名刺ぐらいの大きさになるように建築しています。空気を密閉した状態で検査をし、漏れているところを埋めていく作業をするのですが、大体0.1~0.2くらいで建築できるようになりました。ほとんど隙間がないです。そうすると、先ほど言ったような換気がしっかりとできるようになります。また、換気の面だけではなく、虫や花粉が入ってくるのを防ぐというメリットもあります。

大塚:アレルギーの人にとっても家の気密性が大切だとよくわかりました。今、新型コロナの問題で換気が大切だというのも言われていることですよね。この気密性に関しては、その住宅に住んだ後からはもうどうにもできないんでしょうか。

古川:それは基本的には対処できないんです。リフォームをして、ほとんど壁を取っ払ったりとかをして0.5以下にしたことがありますが、とても大変でした。住宅の購入や建築を考えられる時点で、気密性を示す「C値」と断熱性を示す「UA値(旧Q値)」を確認されるといいですよ。

大塚:医者は病気については指導ができるのですが、食事や住まいなど生活のこととなると非常に弱いんです。でも、こうして知っていたらアドバイスできそうなこともたくさんありますね。私自身とても勉強になりました。

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注:平成14年までは最低基準が定義されていましたが、現在は基準値としては明記されなくなりました。北海道、青森県・岩手県・秋田県で2、その他の地域で5。

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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