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化膿性汗腺炎の新たな治療選択肢 - 抗TNF-α療法と抗IL-17療法の可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

化膿性汗腺炎は、非常に痛みを伴う慢性の炎症性皮膚疾患で、日常生活に大きな支障をきたします。欧米では人口の1〜4%が罹患していると言われていますが、日本でも決して珍しい病気ではありません。化膿性汗腺炎の原因は複雑で、遺伝的要因や環境的要因、免疫の異常などが関与していると考えられています。

残念ながら、現時点で化膿性汗腺炎を完治させる方法はありません。抗菌薬などの治療を行っても、一時的な効果しか得られないことが多いのが実情です。しかし近年、乾癬など他の皮膚疾患の治療に用いられている生物学的製剤が、化膿性汗腺炎にも有効である可能性が示唆されています。

【抗TNF-α療法の有効性と課題】

化膿性汗腺炎の治療において、現在最も有望視されているのが抗TNF-α療法です。TNF-αは炎症を引き起こす物質の一つで、化膿性汗腺炎の皮膚では過剰に産生されています。抗TNF-α薬であるアダリムマブは、化膿性汗腺炎に対する唯一のFDA承認薬です。

アダリムマブを使用した臨床試験では、60%前後の患者で症状の改善が認められました。しかし、治療を中止すると70%の患者が再発してしまうことが課題となっています。また、エタネルセプトなど他の抗TNF-α薬の有効性は限定的で、さらなる検討が必要とされています。

【抗IL-17療法への期待】

IL-17は炎症性サイトカインの一種で、化膿性汗腺炎の病変部で増加していることが分かっています。IL-17を標的とした生物学的製剤は乾癬の治療薬として開発されましたが、化膿性汗腺炎への応用が期待されています。

抗IL-17抗体のセクキヌマブは、少数例の臨床試験で有望な結果が得られています。さらに、IL-17AとIL-17Fの両方を阻害するビメキズマブは、より高い有効性が示唆されており、日本でも保険適応となりました。今後、大規模な臨床試験により抗IL-17療法の有用性が確認されることが期待されます。

【新たな治療ターゲットの探索】

化膿性汗腺炎では免疫の異常が深く関与していますが、その全容は未だ明らかになっていません。最近の研究で、JAK阻害薬のルキソリチニブが表皮角化細胞の炎症性サイトカイン産生を抑制することが分かり、外用薬としての可能性が示唆されました。

また、IL-1受容体拮抗薬のアナキンラは、化膿性汗腺炎患者の治療選択肢として有望視されています。レチノイドの一種であるアシトレチンも、難治性の化膿性汗腺炎に対する長期的な有効性が報告されています。

化膿性汗腺炎は、関節リウマチや炎症性腸疾患など他の慢性炎症性疾患を高率に合併します。これらの疾患に対する新薬の開発が、化膿性汗腺炎の治療にも恩恵をもたらす可能性があります。今後、化膿性汗腺炎の免疫学的機序の解明が進むことで、より効果的な治療法の開発につながることが期待されます。

化膿性汗腺炎は、原因が複雑な難治性の皮膚疾患です。局所療法や抗菌薬による治療は限界があり、生物学的製剤を含めた全身療法が必要とされます。現時点では抗TNF-α薬が第一選択ですが、再発率の高さが課題となっています。抗IL-17抗体をはじめとする新たな治療薬の開発が進んでおり、今後の臨床応用が期待されるところです。

化膿性汗腺炎は患者さんのQOLを著しく損なう疾患ですが、病態の理解が進むことで、より効果的な治療法の選択が可能になると考えられます。難治例に対しては、皮膚科専門医への相談をお勧めします。少しずつではありますが、化膿性汗腺炎の治療は確実に前進しています。

参考文献:

Samifanni R, et al. (2024) Effectiveness of Anti-tumor Necrosis Factor Drugs on Hidradenitis Suppurativa: A Systematic Review. Cureus 16(11): e74172. DOI 10.7759/cureus.74172

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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