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本田圭佑は毒か薬か。「落選リスク」を 回避したハリルホジッチの思惑

杉山茂樹スポーツライター
(写真:ロイター/アフロ)

結局、W杯最終予選UAE戦の25人の代表メンバーに招集された本田圭佑。ハリルホジッチとの関係から想起するのは、岡田武史元日本代表監督と三浦知良との関係だ。1998年フランスW杯。岡田サンはその本大会直前になってカズをメンバーから外した。

19年経っても風化することのない、日本サッカー史に残るこの事件。岡田サンを悪く言う人の方が多数派だ。しかし、カズの調子はその時に至るまで、限りなく低調だった。こちらには「岡田監督はカズをまだ使い続ける気か」と原稿に書いた記憶がある。

最後の最後、しかも現地で行なった直前合宿後にカズを日本に帰国させたことは、それまでの彼の功績を考えれば、礼を欠く行為になる。そのタイミングは誤りだが、外すという判断は正しかったと、いまでも思っている。

フランスW杯本大会が迫るにつれ、カズのプレーは悪化していった。これは事実だ。その姿と重なるのが、いまの本田なのだ。ミランで出ている、出てないより、遙かに重要な問題だ。プレーそのものがよくない。よくなる気配を感じない。ロシアW杯が始まる2018年6月から逆算すれば、このあたりが限界。これ以上引っ張らないほうが日本のため。そう思う。

とりわけ減退著しいのはキープ力、シュート力、推進力など、アタッカーとしての攻撃能力だ。ミランで出場できないのも、モンテッラ監督との相性の問題ではなく、本田自身のアタック力が落ちたからだと見る。

本田のピークは2011年のアジア杯。CSKA時代のケガの影響もあるのだろう。そこから徐々に低下していった。この調子でいけば、2018年6月には、さらに低下しているだろう。

「世界の一流クラブで練習に参加しているだけでも大きな経験だ」と、先日の代表選手発表記者会見でハリルホジッチは本田を持ち上げたが、もはやミランは世界の一流では全くない。なによりセリエAそのもののレベルが低い(欧州4位)。そこでミランは現在7位。ヨーロッパリーグ出場圏外にある。欧州クラブランキングでは41位だ。そして来年、再来年と、このランキングはさらに下がる。60位ぐらいまで転落するのは時間の問題だ。

諸々を勘案すれば、スペインリーグ現在8位のエイバルより弱い――との見立てに大きな狂いはないはずだ。そのエイバルで現在スタメンを守り続ける乾貴士は招集されず、今季たった96分しか試合に出ていない本田が招集される。

ハリルホジッチはつい4カ月前まで「所属チームで試合に出ていない人は使わない。できるだけ試合に出るように努力しろ」と、大きな声で繰り返し述べていたが、それとこれとの間に整合性は全くない。少なくとも乾には納得できない話だろう。

岡田サンは2度目の代表監督を務めた際にも、難題に遭遇した。チーム力は2010年W杯の足音が近づくにつれ低下。本大会への期待度は急降下した。そこで岡田サンは中村俊輔をベンチに下げ、本田をセンターフォワードで起用した。W杯本大会初戦、対カメルーン戦にぶっつけ本番で。この作戦が奏功。日本はベスト16入りを果たした。

7年前、中村俊輔を抑えてエースの座に就いた選手が、今回はその時の中村俊輔の役を演じることになるのか。いや、現在の本田は、その時の中村俊輔よりさらに悪い状態だ。岡田サンは少なくともW杯の1年前まで、中村俊輔を遠藤保仁とともにチームの中心選手として扱っていた。

ハリルホジッチの本田への信頼度はそこまで高くない。昨年11月のサウジアラビア戦ではスタメン落ち。交代出場にとどまっている。今回の代表発表記者会見の席上でも、「試合に出場しなくても必要な選手だ」と、存在感は認めても、「実際に使うかどうかは別」としている。

W杯本番まで1年3カ月近くあるこの段階で、青息吐息の状態にある本田。それでも代表に招集すべき人材なのか。ファンの意見はほぼ真っ二つに分かれるようだが、「落選」となれば初めて下される決断だ。大きな波紋を呼ぶことが予想される。招集すれば、それはそれで物議をかもすだろうが、より大きな騒ぎになるのは落選。招集には、「試合で使わない」という選択肢も残されている。

ハリルホジッチは、判断を先延ばしにしたのだと考える。英断を下した末に試合に敗れれば、それこそ解任騒ぎに発展する。「落選」はハリルホジッチにとって、よりリスクの高い決断なのだ。それを避けた。勇気がなかったと言うべきか。

それが混乱の火種になる可能性もある。サッカーは個人の成績が数字で表れにくい競技だ。記録はゴール数(得点ランキング)などに限られる。誰を選ぶか。誰を使うかはすべて監督の思惑次第。野球との決定的な違いでもある。WBCを戦う日本代表チームに、数字を残せていない選手はいない。大物でも、昨季不振だった選手は落選している。選考基準がある程度は明快であるのに対し、サッカーは限りなくグレーだ。

オシムは、選手選考を「監督の趣味」だと述べた。「私の趣味に意見することはできても、変えることはできない」とも述べている。

代表に招集されなかった選手、招集されても起用されなかった選手と、実際に使われた選手の間には、精神的に大きな差が生じる。外れた選手、起用されなかった選手のストレスは半端なく大きい。

なんであの選手が選ばれるんだ。なんでスタメンで使われるんだ。選手の間に不満は常に燻(くすぶ)っている。出場機会を求めようとせず、ミランベンチに敢えて意図的に居座り続けるかのような本田への不満も、少なくないと思われる。

そうした環境下にサッカー監督は身を置いている。選考基準にブレが出れば、監督への信頼は一気に失われる。本田招集はリスク回避の算段だと述べたが、それはあくまでも対外的なもの。対内的なリスクはむしろ膨らむ。不満の火種になる。

そのうえ本田は、出場すればポジションを無視した動きをする。4-2-3-1の3の右で出場しても、多くの時間そこを離れて真ん中付近でプレーする。アピールしたいという気負いが先に立つのか、変に目立つプレーをする。その結果、チームのバランスに乱れが生じる。

ハリルホジッチが持ち上げる本田の存在感が、逆に大きな負の要素になる可能性は高いのだ。本田がデンと構える日本代表が、2018年ロシアW杯本大会で躍進を遂げる姿を、僕は想像できないのである。

(集英社・Web Sportiva 2017年3月17日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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