ノルウェーでオペア制度廃止の議論 裕福な家族がフィリピン人女性子守りを搾取する温床に
ノルウェーの滞在先で、ベビーシッターや家事代行として有償労働をするオペア制度。今、廃止か、制度の厳格化を求めて、議論が進んでいる。理由は、文化交流事業としての制度のはずが、裕福なノルウェー人家庭が、外国人労働者を低賃金・過重労働で搾取する現状が改善されないためだ。
ノルウェーでは、1969年より定められ、18~30歳未満の子どもがいない外国人労働者が、ノルウェーでのホストファミリー先で家族として受け入れられる。1日5時間まで、週30時間の労働時間で、清掃、子どもの保育、ペットの世話をすることが条件。ホストファミリーは、航空券、滞在費、食費を無料で支給し、ノルウェー語語学学校に通う学費を補助、最低月5600ノルウェークローネ(およそ7万6千円)を労働費として支払う。
現在は、およそ3000人のオペアがノルウェーにおり、日本人も応募可能。実際は、多くのフィリピン人女性によって利用されている。
「家族の一員」のはずが、低賃金で雇える使用人、「奴隷」に?
オペアセンターによると、オペアはノルウェー語と文化を学び、ホストファミリーはオペアの出身国のことを学ぶことが本来の文化交流事業としての目的だ。
オペアは、本来は「家族の一員」として受け入れられなければいけない。しかし、ノルウェー労働総同盟LOは、VG紙の4日付けの報道で、この制度が原因で、オペアはもはや「裕福層の奴隷」と化していると話す。
※ノルウェーの首都オスロでは、中心部にあるアーケル川を境に、「東部」=移民や学生が多い発展途中の貧困地域、「西部」=“生粋のノルウェー人”(=移民背景がない白人のノルウェー人)が多く住む裕福な地域とされている。
オスロでは、2月3日、ノルウェー人の資産家が2011~14年の間、複数のフィリピン人女性を家に住まわせ、月100時間以上も規定の労働時間をオーバーさせ、時給41ノルウェークローネ(560円)のみしか支払っていなかったことが判明、裁判で罰せられた。
2013年以降は、規則を破ったホストファミリーは、一時的に制度を利用できなくなる隔離期間が設けられた。DN紙とVG紙の報道によると、2014年にその対象となったのは2家族、2015年に7家族、2016年だけでも45家族が審査対象となり、結果29家族が処罰対象に。
筆者はオスロ大学でジェンダー学を副専攻で学んでいた。かつて白人が黒人の使用人を雇っていたように、ノルウェー人女性が労働市場に進出するための代償として、オペア制度は新たな差別問題をうんでいると指摘する教授や文献も珍しくはなかった。
本来の目的で制度を利用している人もいるのだろう。しかし、問題があっても、入国管理局UDIや警察に相談すると、強制送還されるかもしれないことを恐れて、黙っている人もいる。
オペアセンターによると、開設した2013年度の相談件数は350件だったが、2015年はオペアとホストファミリーの両方から合計1200もの相談案件が舞い込んだ。VGの2月の報道によると、2016年は3000人中700人のオペアが連絡をとってきたという。2015年に発行されたオペア滞在許可証は1336件。そのうち90%がフィリンピン人で占められている。
制度の完全廃止が議論されている別の理由が、政府からの補助金の停止が理由で、オペアセンターが3月末をもって閉鎖するためだ。オペアが逃げ込む場所がなくなれば、監視機関がなくなり、問題がさらに悪化する可能性がある。
人権問題に積極的な左派社会党は、「制度を悪用している人があまりにも多い」と制度廃止を提案。また、最大政党である野党・労働党も、現在の制度は廃止し、悪用されない別の形を検討したいとVG紙に話し、複数の他政党も同意している。
Text: Asaki Abumi