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特効薬が効かない「耐性マイコプラズマ」が増えているって本当? 感染予防策は

倉原優呼吸器内科医
(写真:イメージマート)

マイコプラズマ肺炎が増えていることが報道されています。特効薬が効かない「耐性マイコプラズマ」が増えているという話を聞いたことがあるかもしれません。今回は、これとマイコプラズマの症状や感染予防策について解説したいと思います。

マイコプラズマとは

「マイコプラズマ」と聞くと、恐ろしい感染症のように思われるかもしれませんが、呼吸器感染症ではありふれた細菌です。インフルエンザや新型コロナなどのウイルスとは分類が異なり、マイコプラズマは「細菌」に位置付けられています。

子どもに多い感染症ですが、家庭内で大人も感染する事例が増えています(図1)。ひどい場合、肺炎になってしまうことがあります。

図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!)
図1.マイコプラズマ感染症の特徴(筆者作成、イラストは看護roo!)

マイコプラズマ肺炎は実際に増えているのか?

コロナ禍では、多くの感染症が低い流行水準に抑えられていました。この理由は、手洗いや手指消毒などの感染対策が強化されていたため、ヒトからヒトへの感染自体が少なかったからです。

実際、新型コロナが5類感染症に移行してから、多くの感染症は急激に反転増加しました。子どもを中心に広がった、RSウイルス感染症、手足口病などがそうです。免疫の成立していなかった人が多かったため、感染が広がったと考えられます。

さて、マイコプラズマ肺炎は確かに増加していますが、これもコロナ禍に抑え込まれていた部分が噴出したと考えられています。この10年の報告数を見ると、2016年の流行に次ぐ多さですが(図2)、過去経験したことがないほど激増しているわけではありません。肺炎になった症例だけが報告対象となっており、水面下には風邪どまりや気管支炎などの患者さんがたくさんいると考えられます。

図2.マイコプラズマ肺炎の過去10年間の推移(参考資料1より引用)
図2.マイコプラズマ肺炎の過去10年間の推移(参考資料1より引用)

潜伏期が2週間と長い場合があること無症状で保菌している子どもが多いことから、誰から感染したかわからないこともしばしばです。

マイコプラズマの症状

マイコプラズマに感染しても、簡単に肺炎になるわけではありません。風邪や気管支炎どまりのことも多いです。とはいえ、頑固な咳になりやすいので(図3)、気になるようなら早めに医療機関を受診してください。

図3.マイコプラズマの経過(筆者作成、イラストは看護roo!)
図3.マイコプラズマの経過(筆者作成、イラストは看護roo!)

耐性マイコプラズマ

乗用車にいろいろな車種があるように、抗菌薬にはいくつかの系統があります。微生物ごとに、その系統にあった抗菌薬を使います。

たとえば、マイコプラズマ肺炎と診断された場合、マクロライド系という抗菌薬を使います。先ほど特効薬と書きましたが、この表現はいささか大げさで、この病原体に特化した治療薬ではなく、広く使われている薬剤です。

実は、10年ほど前に、このマクロライド系が効きにくい、耐性マイコプラズマが流行しました(2)。当時は8割以上がマクロライド系に耐性でした。しかしその後、徐々に耐性率は下がっていきました(3)。これは流行する遺伝子型というものが変わったからと考えられています。

今年の耐性マイコプラズマの比率はまだ不明です。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると(4)、最新のデータでは、カナダで12%、中国で80%(最近の研究では100%だそうです(5))、ヨーロッパは5%(ただしイタリアは20%)、アメリカは10%です。

CDCのウェブサイトには「日本は50%以上」と書かれています。実は国内では10~20年ごとに、2種類の遺伝子型のマイコプラズマが交互に流行を繰り返していることがわかっています。そのため、耐性マイコプラズマと耐性でないマイコプラズマが交互に流行していいます。現在は、おそらく耐性でないタイプが流行していると思われます。

しかし、中国では耐性でないはずのタイプが耐性化しているなど、マイコプラズマの顔つきが変わっているという報告もあることから(5)、今回の流行のデータを集める必要があります。

ただ、決してこれら耐性マイコプラズマはマクロライド系が効かないわけではなく、他剤より効果が劣るだけです(6)。

とてもやっかいな敵に変貌したわけではないので、過度な懸念は不要です。マイコプラズマの感染に注意は払うべきですが、かといって毎日不安に感じて過ごすほどではないでしょう。


マイコプラズマの感染予防策

マイコプラズマは、基本的に飛沫感染・接触感染でうつります。新型コロナやインフルエンザの感染予防策とほとんど共通しています(図4)。異なるのは、マイコプラズマにはワクチンがないということです。

図4.マイコプラズマの感染予防策(筆者作成)
図4.マイコプラズマの感染予防策(筆者作成)

マイコプラズマは家族内で発症することが多いので、家族全員がゴホゴホ咳をしていたら、これを疑う必要があります。

(参考資料)

(1) 感染症発生動向調査週報 2024年第31・32週(第31・32合併号)(URL:https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2024/idwr2024-31-32.pdf

(2) Kawai Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2013 Aug; 57(8): 4046–4049.

(3) Kenri T, et al. Front Cell Infect Microbiol. 2020 Aug 6:10:385.

(4) CDC. Mycoplasma pneumoniae Infection Surveillance and Trends(URL:https://www.cdc.gov/mycoplasma/php/surveillance/index.html

(5) Chen Y, et al. Front Microbiol. 2024 Aug 6:15:1449511.

(6) 日本呼吸器学会. 成人肺炎診療ガイドライン2024. メディカルレビュー社.

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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