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アニメ作品は越境する時代へ バンドリ!『It's MyGO!!!!!』と『ガルクラ』が対バン実施

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
『It's MyGO!!!!!』と『ガールズバンドクライ』のキービジュアル

 女子高生などによるバンド活動に焦点を当てたアニメ作品が一つの流行になっています。この2年間でも、2022年10月から12月にかけて『ぼっち・ざ・ろっく!』が放送され、ブルーレイ1巻が約3万枚を超える売り上げの大ヒットになりました。翌23年6月から9月にかけて、『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』が放送され、話題を集めました。そして24年4月から6月末にかけて、『ガールズバンドクライ』が放送され、現在注目を集めています。

「MyGO!!!!!×トゲナシトゲアリ『Avoid Note』」の開催概要
「MyGO!!!!!×トゲナシトゲアリ『Avoid Note』」の開催概要

 そして7月5日、「MyGO!!!!!」と「トゲナシトゲアリ」が25年1月12日(日)に同じ会場で演奏する対バンライブ「MyGO!!!!!×トゲナシトゲアリ『Avoid Note』」の開催が発表されました。会場は東京都文京区の「TOKYO DOME CITY HALL」で、こうした今話題を集めているアニメ作品の壁を超えた対バンライブが実施されるのは、あまり例がないと言えます。

「MyGO!!!!!」とは

「MyGO!!!!!」の5人のメンバー。左から千早愛音役のギターの立石凛、長崎そよ役のベースの小日向美香、高松燈役のボーカルの羊宮妃那、椎名立希役のドラムの林鼓子、要楽奈役のギターの青木陽菜
「MyGO!!!!!」の5人のメンバー。左から千早愛音役のギターの立石凛、長崎そよ役のベースの小日向美香、高松燈役のボーカルの羊宮妃那、椎名立希役のドラムの林鼓子、要楽奈役のギターの青木陽菜

 「MyGO!!!!!」(マイゴ)は、ブシロードが15年から展開する音楽プロジェクト『BanG Dream!』(バンドリ!)シリーズの1バンドで、音楽バンドとしては22年4月から活動しています。最初の1年間は声優名が伏せられ、ライブでも演者の顔に照明が当たらない形で展開していました。

『It's MyGO!!!!!』は池袋周辺が舞台になっている(筆者撮影)
『It's MyGO!!!!!』は池袋周辺が舞台になっている(筆者撮影)

 そして23年4月に声優を公開し、6月末からTVアニメ放送が開始。これまでの『バンドリ!』シリーズの作品を観ていなくても問題なく視聴できる構成が特徴で、今時のアニメでは珍しいドロドロした内容が評判となり話題を集めました。

作中の重要な舞台の一つ、サンシャインシティのスペイン階段(筆者撮影)
作中の重要な舞台の一つ、サンシャインシティのスペイン階段(筆者撮影)

 バンド解散後の人間関係の対立と葛藤を描いており、登場人物の感情描写が緻密に描かれています。単にドロドロしているだけでなく、登場人物の抱えている欲求が「自分の居場所が欲しい」という、思春期に誰しもが抱いたであろうわかりやすい普遍的な感情なのが特徴です。

アドアーズサンシャイン店に設置されていた「MyGO!!!!!」の等身大パネル(筆者撮影)
アドアーズサンシャイン店に設置されていた「MyGO!!!!!」の等身大パネル(筆者撮影)

 その普遍的な欲求のぶつかり合いによって対立と葛藤が起こり、そして「MyGO!!!!!」という新しいバンドの再生まで描ききっています。物語構成上で、「プロットポイント」とも呼ばれる登場人物の感情の転換が起こる重要な変化点には音楽ライブシーンを配置するなど、構成面、演出面でも非常に優れた作品だと言えます。『It's MyGO!!!!!』は今年秋に劇場版総集編を前後編で上映を予定しているほか、25年1月からは、『It's MyGO!!!!!』の続編にあたる、『BanG Dream! Ave Mujica』が放送予定です。

『ガールズバンドクライ』とは

『ガールズバンドクライ』のキービジュアル
『ガールズバンドクライ』のキービジュアル

 『ガールズバンドクライ』(『ガルクラ』)は、今年4月から6月28日(金)まで放送されていた作品で、TVアニメ放送によって人気が急上昇している作品だと言えます。そのクールに放送された作品の人気度の図る一つの指標である、ブルーレイとDVD1巻の売上枚数では『ガルクラ』の「Blu-ray & DVD Vol.1」は、24年春クール作品でトップ。『鬼滅の刃』や『響け!ユーフォニアム』などの人気作品を押さえる形で、昨期の「覇権アニメ」と見る人もいます。

劇中バンド「トゲナシトゲアリ」の5人のメンバー。左から安和すばる役のドラムの美怜、河原木桃香役のギターの夕莉、井芹仁菜役のボーカルの理名、ルパ役のベースの朱李、海老塚智役のキーボードの凪都
劇中バンド「トゲナシトゲアリ」の5人のメンバー。左から安和すばる役のドラムの美怜、河原木桃香役のギターの夕莉、井芹仁菜役のボーカルの理名、ルパ役のベースの朱李、海老塚智役のキーボードの凪都

 4月のTVアニメ放送を前に、音楽活動は「トゲナシトゲアリ」(「トゲトゲ」)というバンド名で23年5月から活動しています。「トゲトゲ」の5人のメンバーは21年6月から開催されたオーディション「Girl's Rock Audition」によって選ばれており、高い音楽演奏技術を持っています。プロの音楽アーティストが声優もしている形になっています。

吉野家川崎西口店が実名で登場し、主な舞台の一つとなっている。現実でもコラボしている(筆者撮影)
吉野家川崎西口店が実名で登場し、主な舞台の一つとなっている。現実でもコラボしている(筆者撮影)

 『ガルクラ』の5人の主人公の年代は10代後半から20代前半と幅広いのが特徴です。このうち10代後半のキャラクターが3人いるのですが、実は現役の女子高生が1人もいないという特徴があります。この設定からしてロックさがあり、作中でもプロのミュージシャン志向のバンドとして描かれています。この点『MyGO!!!!!』ではメンバー全員が中高生であり、対照的です。

『ガルクラ』の主な舞台一つとなった川崎駅前(筆者撮影)
『ガルクラ』の主な舞台一つとなった川崎駅前(筆者撮影)

 物語の内容は、高校や元居たバンドなど、自分の居場所を失った主人公達が新しいバンドを結成して始める展開なのですが、「見返してやりたい!」という欲求の強さが特徴にもなっています。

 作中の主な舞台が川崎市で、主人公達のバイト先である吉野家をはじめ、作中に登場する施設の大半が実名で登場します。舞台も都内各所や熊本市、長野県の諏訪市など多岐に描かれており、「聖地巡礼」しがいのある作品とも言えます。

進む作品間のコラボ

7月5日の対バンライブ発表会後の写真
7月5日の対バンライブ発表会後の写真

 今回の「MyGO!!!!!×トゲナシトゲアリ『Avoid Note』」のように、異なる作品間でコラボしてイベントを実施する動きは、近年積極的になってきています。

 音楽ライブでは、23年12月9日と10日に実施された、「異次元フェス アイドルマスター ラブライブ!歌合戦」が最たる例だと思います。このライブは「アイドルマスター」(「アイマス」)シリーズと「ラブライブ!」シリーズの合同ライブで、会場は東京ドームを使用して実施されました。

「異次元フェス」のキービジュアル(バンダイナムコフィルムワークス提供)
「異次元フェス」のキービジュアル(バンダイナムコフィルムワークス提供)

 また、音楽ライブだけでなく、「聖地巡礼」でもコラボする事例も出てきています。現在展開されているのが、静岡県沼津市を舞台にした『ラブライブ!サンシャイン!!』と、山梨県や静岡県の各地を舞台にした『ゆるキャン△』のコラボスタンプラリー「Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜」です。

 これは静岡県全域を舞台にしたスタンプラリーで、各スタンプには両作品のキャラクターが一緒に描かれているのが特徴です。両作品のファンにスタンプラリー文化がある背景もあり、9月末まで実施されています。

「Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜」キービジュアル(miraithings提供)
「Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜」キービジュアル(miraithings提供)

 こうした作品間のコラボの場合、舞台間のコラボは積極的に描かれる傾向にあります。例えば先述の「異次元フェス」の際には、「ラブライブ!」シリーズの舞台地である沼津や金沢などを「アイマス」シリーズのキャラクターが訪れるビジュアルも制作されました。

アニメイト池袋本店に設置されていた「MyGO!!!!!」の等身大パネル(筆者撮影)
アニメイト池袋本店に設置されていた「MyGO!!!!!」の等身大パネル(筆者撮影)

 この点では、『It's MyGO!!!!!』は池袋周辺が、そして『ガルクラ』は川崎市などが舞台になっています。7月5日の発表会でも、『ガルクラ』の主人公・井芹仁菜役の理名さんは、「自分は広島出身で、初めて川崎に訪れた際は劇中の仁菜同様、川崎は東京だと思い込んでいた。駅前路上ライブも盛んで、私は音楽が好きなので音楽を通じて川崎をもっと好きになると思う」と話しています。

タワーレコード川崎店に設置されている「トゲトゲ」のパネル(筆者撮影)
タワーレコード川崎店に設置されている「トゲトゲ」のパネル(筆者撮影)

 アニメで舞台となった地域が盛り上がることは既に多くの事例がありますが、作中のバンドの拠点地であることを通じて、音楽で地域が盛り上がっている事例はまだそんなに多くないと思います。アニメを通り越して、音楽でお互いの街が盛り上がれれば新しい取り組みになることは間違いないでしょう。今度の対バンライブでも、「聖地」間のコラボに大いに期待したいところです。

川崎市内の銭湯「矢向湯」に設置されている『ガルクラ』の等身大パネル(筆者撮影)
川崎市内の銭湯「矢向湯」に設置されている『ガルクラ』の等身大パネル(筆者撮影)

(クレジットのない写真・画像はブシロードミュージック提供)

(C)BanG Dream! Project

(C)東映アニメーション

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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