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下位モデル「iPhone 5c」は新規顧客獲得に貢献? 米国購入者の半数がサムスンなどからの乗り換え

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー

カンター・ワールドパネルが公表したスマートフォン市場の調査リポートによると、米アップルが今年9月に発売したアイフォーン(iPhone)、「5s」と「5c」の両モデルは、同社の市場シェア拡大に寄与しているが、前モデル「5」に比べると世界市場におけるインパクトは小さく、アップルの世界各国のシェアは前年同期比で縮小傾向にあるという。

例えば、今年8〜10月の欧州5カ国(英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン)を合わせた市場におけるアイフォーンの販売台数シェアは15.8%で1年前に比べ5ポイント低下している。

これに対し米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド(Android)」を搭載するスマートフォンのシェアは70.9%で、同6.4ポイント増加した。

また米マイクロソフトの「ウィンドウズフォン」のシェアは10.2%で同5.4ポイント増。ウィンドウズフォン搭載端末は台数規模は小さいものの、欧州で急速に伸びているという。

「5c」、利用者層の違いが乗り換えもたらす

一方でアイフォーン5sと5cは一部の国で目覚ましい成果が出ているという。とりわけNTTドコモが初めてアイフォーンの取り扱いを始めた日本では10月のシェアが76.1%にまで達した。

米国においても同月のシェアは52.8%と高い水準。また、英国における8〜10月のシェアは28.7%で、こちらも堅調に推移している。英国では3対1の比率で上位モデルの5sが、下位モデルの5cよりも多く売れているという。

アップルが2つの新型アイフォーンを同時に発売したのは現行モデルが初めて。当初は中国などの新興国市場向けに廉価モデルを用意し、韓国サムスン電子などのライバルからシェアを奪い返す狙いがあると見られていたが、アップルが選んだ道はそうではなかった。

米国では携帯電話会社との契約を結ばない場合、5cの16GBモデルは549ドル。これに対し5sは同じ容量のモデルが649ドルで、両者の差は100ドルしかない。つまり下位モデルは新興国市場に向けた廉価モデルではなかったのだが、今回のリポートによると、こうしたアップルの狙いが米国で奏功しているもようだ。

それによると、 5cを購入した米国の消費者は、そのほぼ半数がライバルメーカーのスマートフォンからの乗り換えだという。これに対し5sはその80%がアイフォーンの旧モデルからの買い替え。

5cは、これまでアップルの顧客でなかった利用者層を取り込み、サムスンやLGエレクトロニクスなどのライバルから顧客を奪っているという。

カンターの調査では、5sを購入した人の平均年齢は34歳だが、5cは38歳と少し高めになる。また5c購入者の42%は世帯収入が年間4万9000ドル未満。この割合は5sだと21%に下がるという。

カンターのアナリスト、ドミニク・スネボ氏には、「5cは幅広い層にアピールできたことが、他社端末からの乗り換えにつながっており、アップルにとっては良いニュース」とコメントしている。

日本は特別な市場、iPhone 61.1%、Android 36.2%

なお今回のリポートを見ると、日本はアップルにとって特別な市場ということがよく分かる。

8〜10月のアイフォーンの市場シェアを国別で見ると、日本は61.1%と、世界の中で最も高い。これに米国の40.8%、オーストラリアの35.0%、英国の28.7%などが続くが、アイフォーンがアンドロイドのシェアを上回っているのは日本のみだ。

これらアイフォーンのシェアが高い国であってもアンドロイドのシェアは50%以上ある。だがアンドロイドは日本で36.2%にとどまっている。

JBpress:2013年12月4日号に掲載)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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