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オリックスをぶっちぎりの3連覇に導いた中嶋 聡監督の手腕とは

横尾弘一野球ジャーナリスト
3連覇を決めた直後には、球団のウェブサイトにも特別な画面が表示された。

 優勝へのマジックを2としていたオリックスは、9月20日の千葉ロッテとの22回戦に6対2で勝ち、3年連続でパ・リーグ王者となった。巨人が9連覇を達成した1973年から50年になるが、その間の最長は1990~94年の西武の5連覇。それに次ぐ4連覇は1975~78年の阪急と1985~88年の西武、3連覇でも2007~09年、2012~14年の巨人、2016~18年の広島しかない。

 オリックスは2019、20年と最下位だったが、その2020年途中で監督代行を務めた中嶋 聡監督が2021年に就任すると、千葉ロッテや東北楽天との首位争いを制して25年ぶりの優勝。さらに、昨年は福岡ソフトバンクとデッドヒートを繰り広げて最終戦で同率に並び、当該対戦の成績で達成した2連覇だった。それが今季は、優勝した時点で2位の千葉ロッテに14.5ゲーム差をつけるぶっちぎりの3連覇だ。

 しかも、今季は吉田正尚がボストン・レッドソックスへ移籍。昨季の打率.335、21本塁打88打点、OPSが1.008の主砲が抜けても、フリー・エージェントで加入した森 友哉らで穴を埋め、チームの打撃成績は落ちるどころか昨年を上回っている。そうした中嶋監督の選手起用について、編成部の牧田勝吾副部長に聞いた。

「オリックスのユニフォームを着た選手を全員必要とし、全員で戦おうとする姿勢には驚かされました。ドラフトには指名順位があり、それが期待値の高さだと言われる。では、6位、7位といった下位で指名した選手には期待していないのかと言えば、補強ポイントで必要だから指名しているわけです。ただ、下位の選手には現場が期待してくれなかったり、多くのチャンスが与えられないこともあります。そうしてスカウティングと現場が噛み合わないと、チームは強くならない。その点、中嶋監督は新戦力を絶妙なタイミングで起用してくれるので、結果を残せる選手が多く、戦力も活性化されるのだろうと考えています」 

監督としていかに勉強しているか

 中嶋監督の「絶妙な選手起用」は、一気に日本代表入りした宇田川優希、開幕投手でデビューした山下舜平大、デビューから7連勝の東 晃平ら、若手や新戦力に限らない。34歳のベテラン・小田裕也は開幕からずっと一軍の戦力だが、75試合に出場して65打席と、守備固めや代走が主な役割だ。それでも、スタメン出場した5月14日の福岡ソフトバンク戦では、ファインプレーで先発の山下を助けた直後、先制の1号2ラン本塁打を放つ活躍。牧田副部長の表現を借りれば、「新戦力には、いいイメージが残る使い方、その他の選手も本人が『いける』と感じているタイミングで起用する」のが好結果につながっているという。

 その一方で、昨年は外野手でゴールデングラブ賞に選出された福田周平が今季は24試合の出場に止まっているなど、チーム内には競争原理がしっかりと働いている。そうなると、選手は起用法よりも、与えられた役割でいかに結果を残すかに集中し、山岡泰輔のように先発からリリーフに転じてもイキイキと投げられるのだろう。

 そして、中嶋監督は現役時代から研究熱心で知られているが、監督になってもその姿勢に変わりはなく、あるベテラン選手に聞けば「監督の趣味は野球、というくらいに勉強をされている」という。

 中日で常勝時代を築いた落合博満に「監督として成功する条件」を尋ねた時も、こう語っていた。

「現役時代に、ある程度の成績を残した人が監督になることが多いけど、監督としてしっかり勉強をしないと、現役時代の感覚で時間が止まってしまう。それでは、監督としていい仕事はできないだろう」

 7回裏に一気の逆転で盛り上がった20日の試合でも、追いかける展開を継投で耐え、勝機にたたみかける中嶋監督のベンチワークは光っていた。そして、選手たちの手で5回宙に舞ったあと、「自分たちの内容を追求していったが、まだまだ強くなれる。西武の5連覇にもチャレンジできるチーム」と、自信に満ちた表情で口にした。オリックスの黄金時代は、しばらく続きそうな勢いだ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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