浅野忠信の最新主演映画、サウジアラビアでの反響は上々
[サウジアラビア、ジッダ]現在開催中の紅海国際映画祭で、浅野忠信主演の「レイブンズ」が上映された。
2回ある上映のうち、筆者が参加したのは2回目。大きいとは言えない会場ながらほぼ満員で、エンドロールが終わると大きな拍手が。サウジアラビアの伝統的服装に身を包んだ男性観客は、日本人だと見てか筆者に歩み寄ってきては、「すばらしい映画だ!」と興奮気味に言って、劇場を出て行った。
写真家深瀬昌久の人生を、事実にフィクションを加えつつ見つめる、ややシュールリアルな伝記映画。ストーリーの中心となるのは、写真に取り憑かれた深瀬と、彼の最愛の妻で最強の被写体だった洋子(瀧内公美)の関係。主要キャストは、ほぼすべて日本人。撮影も日本で行われたが、監督はイギリス人のマーク・ギル、映画は日本、フランス、スペイン、ベルギーの合作だ。
映画祭を訪れているフランス人プロデューサーのシリル・カダール氏とスペイン人のプロデューサー、デビッド・バレラ氏は、この反響に満足な様子。10月末のオースティン映画祭でも観客賞を受賞したばかりだが、今回の観客はまるで違う層だ。「今の時代はとくに、芸術家の暗い部分を描く映画を好まない人もいる。そんな中でも人々に受け入れられることを望んでいたが、これほどポジティブな反応を得られるとは」と、カダール氏は語る。
カダール氏とギル監督は、2011年からの知り合い。2015年にイギリスの新聞で深瀬昌久についての記事を読み、映画にしたいと思ったギル監督が、2019年、日本と仕事をしてきた経験を持つカダール氏に相談を持ちかけてきたのだという。パンデミックの後、プロジェクトが走り出すと、スペイン、ベルギーの会社も参加。カダール氏は、「日本の映画はフランスで成功する。フランス人は日本の芸術、食が好き。フランス人のシェフに日本食について語らない人はいない」と述べる。バレラ氏も「そこはスペインも同じ。それに、この映画は、芸術と愛についての話。それは文化の違いを超えて人々の心に届くはず」と付け加える。
今年は「SHOGUN 将軍」が大ヒットし、浅野氏の知名度がさらに高まった。9月のプライムタイム・エミー賞では助演男優部門(ドラマシリーズ)にノミネートされ、つい先日発表された放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards)ノミネーションでも同部門に食い込んでいる。こちらの授賞発表は来年1月12日。年明けにはほかに全米映画俳優組合賞(SAG)などもあり、「SHOGUN」がらみのニュースはさらに続くと思われる。
一方、深瀬昌久についての関心も再び高まっている。昨年は東京写真美術館で回顧展が行われたが、バレラ氏によればスペインでも昨年回顧展があり、来年にも予定されているとのことだ。
映画の日本公開は、来年3月28日。フランスではおそらく来年秋頃に公開予定、スペイン、ベルギーでの公開日は調整中。アメリカなど、ほかの国の配給会社も探している。