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伊達&ヨネックス Jr2期生キャンプ進行中! 一方、伊達さんが死んでもやりたくなかったこととは!?

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
ジュニア選手1人ひとりにアドバイスをしていく伊達さん(写真すべて/神 仁司)

 元プロテニスプレーヤーの伊達公子さんが、生涯契約を締結しているヨネックス株式会社と組み、2019年1月に発足させた、日本女子ジュニア選手を対象とした育成プロジェクト「伊達公子×ヨネックスプロジェクト」~Go for the GRAND SLAM~は、2021年より第2期生を迎えて新たな展開を見せている。

 第2回キャンプ(9月21~22日、神奈川・荏原湘南スポーツセンター)が開催されたが、第2期生では、対象年齢が15歳以下から17歳以下に変更され、また参加人数は4名から8名に増やした。

 なぜ、8人への増員に踏み切ったのだろうか。伊達さんを含めて教える側が、第1期生の4人を2年間指導したノウハウを蓄積して、少しばかり自信がついたのかと推察されたが、伊達さんからは意外な答えが返って来た。

「(自信は)全然ないですね(笑)。プロジェクトの1期生が終わって、ジュニアたちからの認知度も出て、周りからの認知度も出た中で、もう少し可能性やチャンスを与えるためにも人数を増やしたいという声が出てきた。スタッフも充実しているので、4人から増やしてもいいのかなという気持ちが私の中にも出てきていたのは確かです。そこに私のスキルが付いてきたからということは全くないですけど、いい形で日本テニス協会のサポートも受けられるようになったし、(プロジェクトの)土台が出来始めているだけに、(ジュニア選手の)母数を増やすことで(世界へ)より引き上げられる可能性も大きくなってくると思った。それが、6なのか、8なのか、12なのかという議論はあったんですけど、最初が4人で、今まで1人ひとりを見ていた形から、あまり一気に増やしてもちょっと難しいなと感じたので、落としどころが8人でした」

練習中には、ジュニア選手の後ろに立って、プレーをじっくり観察する伊達さん。世界のツアーレベルで活躍した伊達さんにアドバイスをもらえるのだから、ジュニア選手たちにとっては非常に貴重な経験だ
練習中には、ジュニア選手の後ろに立って、プレーをじっくり観察する伊達さん。世界のツアーレベルで活躍した伊達さんにアドバイスをもらえるのだから、ジュニア選手たちにとっては非常に貴重な経験だ

 短期間でいかに世界へ行くかという選考基準が、第2期生では設けられた中、応募してきたジュニア選手たちのレベルは目に見えて上がった。そして、オーディションによって選ばれたのは、林妃鞠(15歳)、木下晴結(14歳)、網田永遠希(15歳)、木河優(15歳)、添田栞菜(15歳)、岸本聖奈(14歳)、古谷ひなた(15歳)、石井心菜(11歳)、以上8名だ。

 木下は、今年9月に兵庫県三木市で開催されたITF(国際テニス連盟)主催のジュニア大会(グレード4)で初優勝して、メキメキと実力を上げてきている。

「(2期生に選ばれて)率直に嬉しかった。でも、同時に選ばれて大きなものを背負うというか、もっと頑張って気を引き締めて、グランドスラムに向けて頑張りたい。プロで活躍してきた方がたくさんいるので、話を聞いて、目で見て肌で感じて、技術的なことはもちろんなんですけど、プロで戦ってきた人じゃないとわからないことを吸収したい。(プロは)難しいし過酷ではあると思うんですけど、そこに挑戦したいという気持ちはあるし、やってみたい」(木下)

 添田栞菜の叔父は添田豪で、グランドスラムの本戦や男子国別対抗戦デビスカップに出場したことのある日本を代表する選手の1人で、そんな背景がありながらキャンプに参加している。

「まさか自分が選ばれると思ってなくて、8人に選ばれてすごい衝撃だった(笑)。キャンプに参加できてもちろん嬉しいけど、みんなにも負けないようにもっと頑張らなきゃと思います。もちろん技術もそうですし、遠征に行った時の行動の仕方やメンタルも学んでいきたいです。高校2年生になった時には、ITFのジュニア大会で優勝を狙いたいし、トップ(一般)の大会でも上位にいけるような選手になりたい」(添田)

技術的にどうアドバイスすれば、ジュニア選手たちがもっと良いテニスになるのか、判断に迷う時は、石井弥起コーチと話し合いをする
技術的にどうアドバイスすれば、ジュニア選手たちがもっと良いテニスになるのか、判断に迷う時は、石井弥起コーチと話し合いをする

 ジュニアプロジェクトの目標は、ジュニア選手をグランドスラム・ジュニアの部に出場させること。決して簡単なことではないが、現実的な目標設定といえる。

 ただ、2021年USオープンの女子シングルス決勝、18歳のエマ・ラドゥカヌ(イギリス)と19歳のレイラ・フェルナンデス(カナダ)との10代対決は、実にセンセーショナルで、多くの人のまぶたに焼き付いているのではないだろうか。ジュニアの強化育成は、地に足を付けていかなければならないが、優勝したラドゥカヌと準優勝のフェルナンデスも、プロジェクトのジュニア選手と同じ10代であり、伊達さんもインスピレーションを感じずにはいられなかっただろう。

「(ジュニアプロジェクトの)この子たちと比べると明らかに差はあるな、と。技術的にも何よりもメンタルとフィジカルは大きな違いがある。年齢差はそんなにないけど、10代での1歳の差は大きいと思う。(プロジェクトのジュニア選手が)初めて起こる事に耐えられるメンタル力、偶然でも本戦に入れて、あそこまで行けるメンタルがあるかといったら、確実に無いと思う。(ラドゥカヌやフェルナンデスが)どんな数年を過ごしてきたのだろうと比較はしてしまいますよね。

 フィジカルに恵まれている(コリ・)ガウフや技術のある(イガ・)シフィオンテクが出てきた時にも(比較の面で)思いましたけど、今回ほどの衝撃はなかった。2人は(ラドゥカヌやフェルナンデスが)そこまで際立つものが見えない中で決勝まで行ったのでインパクトは強かった。同時に、プロジェクトに係わる中で、何かしら彼女(ジュニア)たちに影響を感じられる瞬間がたくさんあればあるほど育つと思っているので、やり方次第では(ジャンプアップは)不可能ではないとも感じます。見聞きするだけでも違うので、影響を与えられるポイントをいっぱい作ってあげたいなと思います」

第2回キャンプでは、伊達さんが、自らのジュニア時代からプロ時代を振り返り、成長を続けていくには何が大切なのかをジュニア選手たちに話した
第2回キャンプでは、伊達さんが、自らのジュニア時代からプロ時代を振り返り、成長を続けていくには何が大切なのかをジュニア選手たちに話した

伊達公子さんが、初めて日本テニス協会の理事に就任

 2021年6月に、伊達さんは、初めて日本テニス協会(JTA)の理事に就任した。現役時代から、「(協会へ)絶対に入らない、死んでも嫌だと思っていましたから(苦笑)」と伊達さんが語ってきただけに、伊達さんが協会の肩書を持つことは、自他共に無いと思われてきた。

 ただ、驚きを含んだ人事ではあったものの、2020年6月から、伊達さんとヨネックスが、日本テニス協会と共にジュニアプロジェクトを推し進めるようになったことを踏まえると、少なからず理解できる部分もあった。“日本女子テニス界の発展”というキーワードを挙げながら、伊達さんは次のように語る。

「強い選手が出てきてくれたらいいなという素朴な思いがある。協会の力によって、しっかりとサポートしてもらえるところはしてもらえるならば、私がどうこうというよりは、ジュニアたちにとってプラスになる部分はたくさんあると思う。いろんな情報も入って来るし、女子テニスに何かしら変化をもたらすきっかけになるのであれば。しかも、それが起こる気配を今感じるんです」

 JTA常務理事で強化本部長を務める土橋登志久氏や、JTA理事で普及育成本部副本部長を務める坂井利彰氏らは、ジュニアキャンプに足を運んで、伊達さんと共にジュニアたちを見守っている。日本のテニスを変えたいと動いており、普及や育成に力を注ぎたいという彼らの姿勢を伊達さんは目の当たりにし、熱意も感じていた。

 最近の日本では、世界に遅れをとりながらも女性幹部の登用が盛んになっているため、伊達さんの理事への起用は、そんな世間体からの人数合わせなのではという邪推が、伊達さん自身にもあったというが、伊達さんが必要であることをJTA専務理事の福井烈氏らから説明を受けた。「あの人たちであれば信頼できるかな」と思った伊達さんは、かなり悩んだ末、理事になることを受け入れたのだった。

 将来的には、“伊達公子会長”が誕生するのだろうか。全米テニス協会では、女性の会長が当たり前のように存在するのだが、「あるわけないじゃないですか! そういう器じゃない。やっぱり向き不向きがあるので」と伊達さんに一蹴された。

 9月28日に51歳になった伊達さんは、「何も不安はないです。年を取ることに抵抗も別にないですし。(不安は)老眼が進んでいることぐらいですかね(笑)。平和です」と何の気負いもない。

ジュニアプロジェクト2期生と伊達さん。1列目左から、木下、木河、林、岸本、伊達さん、古谷、添田、網田、石井。今後約2年間で、8人がどんな成長を遂げるのか楽しみだ
ジュニアプロジェクト2期生と伊達さん。1列目左から、木下、木河、林、岸本、伊達さん、古谷、添田、網田、石井。今後約2年間で、8人がどんな成長を遂げるのか楽しみだ

 第3回目のジュニアキャンプは、11月下旬に予定されている。新型コロナウィルスのパンデミックが続く中ではあるが、第2期生は結果を示していくことも大事になっていくだろう。

 もちろん、プロを目指すのであれば、ジュニア時代は一つの過程であり、結果がすべてではないのだが、ジュニア選手から将来に向けて何らかの良いサインが見られるかどうかは、やはり大切だ。第2期生でのプロジェクト中に、ジュニア選手が成長を遂げて、全日本レベルでの結果や、ITFジュニア大会での結果など、将来に向けた良いサインを発してくれることを大いに期待したい。

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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