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現在の錦織圭の実力は、世界ランキング何位が妥当だと考えますか? 【テニス】

神仁司ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト
ジャパンOPベスト8に進出した錦織圭(写真/神 仁司、撮影機材ソニーα9III)

 世界ランキング200位は、今の錦織圭には妥当ではない……。

 ジャパンオープンで錦織のテニスを目撃した者は、誰もがそう感じたはずだ。

 今回、錦織(ATPランキング200位、9月23日付、以下同)は、本戦ワイルドカードを獲得して、2018年大会以来6年ぶりとなるジャパンオープン出場を果たした。

当初、けがから2024年シーズンに復帰した錦織が、ATP500グレードの大会で、どれだけ活躍できるのか半信半疑であったが、それを払拭するかのように、錦織は、かつてトップ10プレーヤーであった頃の輝きを放ちながら有明コロシアムで躍動した。

 1回戦では、ジュニア時代からお互いをよく知るマリン・チリッチ(212位)との対決となった。チリッチとは16度目の対決、対戦成績は錦織の9勝6敗で、USオープンやATPファイナルズなどの重要な局面での対戦が多い。特に、多くの人の記憶に残っているのが、2014年USオープン決勝で、3-6、3-6、3-6で錦織が敗れた試合だろう。

 2人の対戦は、錦織が5セットで勝利した2018年USオープン準々決勝以来となったが、その後、錦織は右ひじと左股関節の手術を、チリッチは右ひざの手術を乗り越えての再戦となった。

 錦織は、試合開始からサーブが好調で、試合の主導権を握って、第1セットを6-4で先取。一方、チリッチは、ジャパンオープンの前週に開催されたATP杭州大会(中国)で、ATPランキング777位(大会当時)でありながら復活優勝を遂げて東京入りしたが、疲れを見せずに、6-3で第2セットを奪い返した。

 ファイナルセットに入っても、錦織のサーブの出来はよく安定したキープを続ける中、錦織が第6ゲームでチリッチのサーブをブレークして6-3でセットを取り、2時間4分におよんだ接戦を制した。

 34歳の錦織と35歳のチリッチが、今も高いレベルのテニスを披露し、それを有明コロシアムで目撃できたファンは幸運だ。錦織は、旧知のチリッチにインスピレーションを感じて、お互いを高め合い、最高のテニスを引き出し合う感覚を覚える。

「それはあると思いますね。お互い年齢が近く、最近は特に境遇も似ていて、大事なところで多く試合もしている。不思議な感じですね、長い付き合いの選手と試合をやるのは。最近は若い選手が増えてきて、復帰してからも知らない選手とやることが多かったですけど、こうやってお互い年齢を重ねても頑張っている相手と戦えるのは、すごい意味のあるものだったし、プラス、このお客さんの中でプレーできたのは気持ちよかったですね」

 接戦が予想されたジョーダン・トンプソン(29位)との2回戦は、錦織の独壇場となった。

「なるべくフォアを使いたいなというのが若干あって、彼のバッククロスが真ん中にくることも多いと思ったので、回り込むように意識して、なるべくフォアで打っていけるよう意識してできました」

 こう振り返った錦織が、常に試合を支配して、6-2、6-3で勝利した。

「若干イメージは超えてきていたので、これ入るんだ、というのが結構あった。これが自分なんだな、まだ潜在能力はあって、それが急に出るタイミングがある。それが今日だったんだなって。これが続かないと意味ないですし、続けられるようにしたいなと思います」

 準々決勝では、錦織が、「トップ5にいてもおかしくないなと常に思う」と評価する、第6シードのホルガー・ルーネ(14位)との初対戦となった。

 錦織は、ベースライン付近からストロークを早いタイミングで打ち込み、展開の早さに慣れないルーネは多くのミスを強いられた。第1セットは錦織が6-3で先取した。

 第2セットに入ると、長いラリーが増え、簡単にポイントが決まらなくなる。

「(ルーネが)レベルを上げてきた」と感じた錦織は、第2セットからミスが早く出る場面が増え、2-6でセットを取られてセットオールとなった。

 錦織は、ファイナルセット第7ゲームで先にブレークに成功し5-3として、迎えた第9ゲームで30-40として、マッチポイントを1回握るが、フォアリターンをミスして取りきることができない。続くサービングフォアザマッチとなる第10ゲームも錦織はキープできず、ルーネが終盤に4ゲームを連取して7-5でファイナルセットを取り、2時間16分におよんだ激戦にピリオドを打った。

「ちょっと足が動いてくれなかった。体力不足とバネの無さが、ちょっと最後出た」と錦織は振り返り、ファイナルセット終盤には、足を自らたたいて、しんどそうに表情をしかめる場面も見られた。

 新時代の担い手の一人である21歳のルーネにはあと一歩およばなかったが、ジャパンオープンでの3試合では、ハイレベルなテニスを披露して、錦織復活を印象づけた。

「いい試合はできたので、自分の中でも十分いいテニスができていました。細かいところはまだまだ足りないなと感じたので、その部分をしっかり修正していきたいですね」

 そして、復帰以降の新たな自信をつけつつある。

「正直、トップ10に到底かなわないというのは、心の中ではあんまり思ってなくて、ちょっと口に出して、言っちゃいましたけど、ま、どっかで、いけるんじゃないかなとは思いながら、ちょっと言っちゃったので、それは申し訳なかったです」

 錦織は、ジャパンオープンベスト8進出によって、ランキングポイント100点を獲得して、ATPランキング100位台中盤にまで上昇する見込みで、2025年1月に開催されるグランドスラムの初戦・オーストラリアンオープンの予選に入れるのは確実となった。

 現在もなお、非凡な才能を発揮して、類稀なショットメイカーであり続けている錦織は、今後、ツアーの高いレベルでのテニスを要求される試合を重ねていく中で、どれだけ体が持ちこたえられるのかが課題になっていくだろう。12月に35歳になる体の声に耳を傾けながら、適切に回復を図り、大きなけがをしないようにケアも心がけなければならない。

 今秋でプロキャリア17年を経た錦織だが、今も変わらずモチベーションを高く維持し続けているのはファンにとって嬉しいことだ。

「結構空白の期間が多く、たぶん17年のうち休んでいる期間も多いので、体感的にそんなに長い感じはしない。もちろん今になって経験値だったり、いろんなものがあって強くなっているのは感じるので、その良さを見せていけたらと思います」

 まだまだ錦織は走り続けていく。

ベースライン付近から、早いタイミングで力強いフォアハンドストロークを打つ錦織
ベースライン付近から、早いタイミングで力強いフォアハンドストロークを打つ錦織

ITWA国際テニスライター協会メンバー、フォトジャーナリスト

1969年2月15日生まれ。東京都出身。明治大学商学部卒業。キヤノン販売(現キヤノンMJ)勤務後、テニス専門誌記者を経てフリーランスに。グランドスラムをはじめ、数々のテニス国際大会を取材。錦織圭や伊達公子や松岡修造ら、多数のテニス選手へのインタビュー取材をした。切れ味鋭い記事を執筆すると同時に、写真も撮影する。ラジオでは、スポーツコメンテーターも務める。ITWA国際テニスライター協会メンバー、国際テニスの殿堂の審査員。著書、「錦織圭 15-0」(実業之日本社)や「STEP~森田あゆみ、トップへの階段~」(出版芸術社)。盛田正明氏との共著、「人の力を活かすリーダーシップ」(ワン・パブリッシング)

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