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陰性の人からコロナ感染? 患者を実際に診療した医師が語るリアルな真実

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士
(写真:ロイター/アフロ)

「PCR検査”陰性”だった人から、新型コロナウイルスが感染した?」というニュースが、世の人々を震撼させた。

実際に診療した医師が、筆者が先日書いた記事

新型コロナウイルスのPCR検査が「偽陰性」となる原因は?

を読んで連絡をくれ、リアルな真実を語ってくれた。

医療の最前線で、報道の裏側で、何が起こっていたのか。

そして、医師は何を思い、何を伝えたいのか。知ってもらいたい。

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男性数名が3月中旬に海外へ行き、その2週間後にそのうちの一人(40歳代・男性)が新型コロナウイルス(COVID-19)のPCR検査で「陽性」と判明した。同行した数名も、すぐにPCR検査を行いましたが、他の人たちは「陰性」。

その陰性だった中の一人が勤務する会社の部下Aさんが今回の患者だった。

■新型コロナウイルスに感染した疑いがあるAさん 症状と経過■

Aさんは40歳代・男性。3月末より発熱。「その後も熱が下がらなかったこと」、「Aさんの上司が海外へ行き、その時の同行者が新型コロナウイルス感染者であったこと」から、Aさんは新型コロナウイルス感染の疑いがあり、専門の外来を受診しました。咳や痰はなく、嗅覚・味覚障害もなく、37℃後半の熱があるのみでした。

血液の所見(白血球数など)は正常、考えられる感染症(インフルエンザ、マイコプラズマ、尿中肺炎球菌など)の検査では全て陰性。胸部CT画像で右肺に影を認め、新型コロナウイルス感染を疑い、PCR検査を行いましたが「陰性」でした。

しかし、その後も咳や味覚・嗅覚障害はないものの発熱が続くため、4月初旬に2回目の受診となりました。血液所見は正常、胸部レントゲン写真では右肺の影が拡大している印象だったため、やはり新型コロナウイルス感染の疑いがあり、PCR検査を行いました。

このときPCR検査(2回目)の結果は「陽性」となりました。

■感染源と思われたAさんの上司 PCR検査はやはり「陰性」だった■

Aさんの検査結果が「陽性」となったため、Aさんの上司にも再度、PCR検査を行いました。しかし、結果はまたも「陰性」

調査の結果、Aさんの周囲には新型コロナウイルス感染者はおらず、やはり上司(PCR検査は2回とも陰性)から感染した可能性が高いと思われました。

つまり、PCR検査が陰性でも、他人に感染させる可能性があるということが示唆されたのです。

■なぜ、Aさんの検査結果が1回目は「陰性」、2回目は「陽性」だったのか?■

今回、2回実施した検体採取は、同じ専門外来にて、同じ人物が、同様の手技で行っているため、検体の採取方法に差はないと思われます。また、同じ施設でPCR検査を行ったことから、検査の技術的な差もないと思われます。

他のPCR検査と同じく「特異度は高い」ものですが、様々な因子の影響により「感度は約70%程度」と予想され、PCR検査は完璧なものではありません。ですので、1回目の「陰性」判定が「偽陰性」の可能性は、あり得るでしょう。

しかし、新型コロナウイルスは未知のウイルスのため、感染してから、どの程度の時間で、PCR検査で陽性となるかは分かりません。1回目のPCR検査が陰性となった理由は検体採取の時期が早過ぎた可能性も考えられます。

また、推測の域を出ませんが、感染源として強く疑われたAさんの上司は、2回ともPCR検査で陰性であったことから、「新型コロナウイルスの遺伝子学的な何らかの因子(まだ解明されていませんが)が影響している可能性」も示唆されました。

今後、新型コロナウイルスの詳細が徐々に解明されるにつれ、陰性となった要因についても注目されてくると思います。

■今回の事例を経験して思ったこと■

一部のマスコミでは、PCR検査を受けるまでに時間がかかったことを非難する風潮があり、PCR検査を「より早期に」、「より多く」行うべきだとの意見がありますが、今回2回目のPCR検査で陽転化したことは「1回目の検査が時期尚早だった」可能性もあったのではないかと思います。

そして、診療の最前線に立つ我々医師が気をつけなければいけないことは、新型コロナウイルスのPCR検査結果が全てではなく、結果が陰性でも経過が改善せず感染を完全に否定できない場合は、再度PCR検査を検討する必要があるということです。

■実際の現場で、自分がコロナに感染するリスクを負っている恐怖心■

新型コロナウイルスは未知のウイルスであるため詳細が不明であり、治療法が確立していません。また、感染すると急激に悪化することもあるため、診療中の感染により命を落とす恐怖心は常にあります。

■リスクを負いながらも、それでも検査を続けるのはナゼなのか■

僕は医療のプロであり、一般市民よりもウイルス感染症に対する予防方法を知っています。そして総合診療医であるため、臓器にとらわれず全身を診察することができ、新型コロナウイルス感染で起こりうる全身の変化に気付きやすいと思います。

感染する恐怖心はありますが、正しい知識を得て、正しく恐れて、最善の方法で最悪に備えつつ、人々が元の生活に戻られるように新型コロナウイルスに向き合う覚悟です。

在り来たりな表現ですが、学生時代にプレーしていたラグビーのように、僕が体を張って診療を頑張ることで他のメンバーの役に立ち、その結果、チーム全員が喜んでくれることを願っています。

■みなさんへ伝えたいこと■

「保健所に連絡したが対応が悪かった」とか、「PCR検査を希望してもなかなか専門の外来を受診できない」とか、「PCR検査の数をもっと増やして欲しい」との意見があります。意見が出ることは悪いことではありませんが、非難はやめて欲しいです。医療者は新型コロナウイルス感染のリスクを抱えながら一生懸命頑張っています。自らや家族のことを犠牲にして頑張っています。

色々な不満を医療者にぶつけて非難するのではなく、労う気持ちを持ち、応援してあげてください。

立ち向かうべきものは人ではなく、ウイルスです。時間はかかるかもしれませんが、みんなで団結してこの危機を乗り越えましょう。

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新型コロナウイルスは、未知な部分が多い。

検査のタイミングが早すぎるのか?というのは、まだ可能性の段階である。もちろん検査のタイミングが遅すぎてもいけない。

未知なウイルスとの闘いは、困難を極める。

医師は、マスクなどの感染予防措置をしていたが、感染者(Aさん)が診察中にマスクをしていなかったため、中リスク「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第2版)」  日本環境感染学会と判断され、濃厚接触者として14日間の勤務停止となっている。

こうして医師は、勤務したくても、出来ない状況に陥っている。感染者だけではなく、感染しない、うつさないを守り、マスク、手洗いを必ずして欲しい。病院へ行くときも。

最後に医師は、「全国では多くの医療関係者が戦っている状況で、前線から離脱してしまい、他の医療関係者に負担が増すことが心苦しく思っています。」と全国の医療関係者のことを気遣っていた

新型コロナウイルスと闘う 我々医療従事者のリーダーとして

医師の現場復帰を心から願っている。

臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として活躍。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。現在、米国にある世界トップクラスのがん専門医療施設のAI 病理ラボ研究員として奮闘中。

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