クリミアのサキ飛行場への打撃はミサイルによるものとウクライナ軍の公式発表
9月7日にウクライナ軍のザルジニー総司令官とザブロツキー中将の連名で発表された「軍事作戦を遂行するための見通し - 2023年:ウクライナの見解」という声明文で、8月9日に行われたクリミア半島のノヴォフェドロフカにあるサキ飛行場への打撃はミサイルによって行われたと言及がありました。
サキ飛行場は現在のウクライナ支配領域から最短で200km離れており、ウクライナ軍が保有するHIMARSのM31誘導ロケット弾(射程90km)やトーチカU短距離弾道ミサイル(射程120km)では届きません。するとザルジニー総司令官の言う最大10機のロシア戦闘機を破壊したサキ飛行場への「ミサイル攻撃」とは一体何なのでしょうか? 可能性としては以下が考えられます。
- ATACMS弾道ミサイル
- フリム2弾道ミサイル
- コールシゥン2巡航ミサイル
- ネプチューン対艦ミサイル
- ドローン(プログラム飛行・自爆型)
ATACMS短距離弾道ミサイルが秘密裏に提供されていた?
HIMARSから発射可能なアメリカ製のATACMS短距離弾道ミサイル(射程300km)ならばサキ飛行場にまで十分に届きます。なおATACMS最新仕様M57E1は近接信管を搭載し着弾寸前に空中炸裂が可能で、サキ飛行場の被害状況で打撃箇所の一部に地面のクレーターが見当たらないという指摘に答えが出せる装備ではあります。
ただし、現時点でアメリカ政府はウクライナへのATACMS供与を否定しています。秘密裏に提供されていたという推測には裏付けとなる材料がありません。
フリム2短距離弾道ミサイル(ウクライナ製)が完成していた?
ウクライナ国産で開発していたフリム2短距離弾道ミサイル(輸出名称グロム2、国内名称サプサン)は射程500km(輸出仕様300km未満)を予定しており、サキ飛行場まで十分に届きます。しかし開発は遅延しており開戦までに間に合っておらず、試射も行っていない状況です。飛行試験を行わずにいきなり実戦投入されたとは考え難く、可能性としては低いでしょう。
- フリム2(Грім-2)・・・フリムはウクライナ語で「雷」の意味
- グロム2(Гром-2)・・・輸出名称。グロムはロシア語で「雷」の意味
- サプサン(Сапсан)・・・ウクライナ国内の正式名称。「隼」の意味
フリム2はミサイルの形状がロシアのイスカンデルによく似ていますが、イスカンデルの特殊なリング状クランプでミサイルを保持するランチャー発射形式は採用せず、一般的なボックスランチャー発射形式を採用しています。なおウクライナ国内での正式名称はサプサンなのですが、輸出名称をそのままウクライナ語に戻したフリム2の方がよく使われている通称となっています。
コールシゥン2巡航ミサイルが完成していた?
ウクライナ国産で開発していたコールシゥン2巡航ミサイルは射程300kmを予定しており、サキ飛行場まで十分に届きます。しかしフリム2と同様に開発は遅延しており開戦までに間に合っておらず、試射も行っていない状況です。飛行試験を行わずにいきなり実戦投入されたとは考え難く、可能性としては低いでしょう。
- コールシゥン(Коршун)・・・ウクライナ語で「鳶」の意味
ネプチューン対艦ミサイルで対地攻撃していた?
ネプチューン対艦ミサイル(射程300km)は中間誘導の補助用としてGPSを採用しているので、もし仮に最後の終末誘導までGPSを利用できる仕様の場合には、対地攻撃である程度の精密誘導が可能な簡易的な巡航ミサイルとして使用が可能です。ただし、ネプチューンでこのような運用が可能とする資料は存在しません。
ネプチューン対艦ミサイルはアクティブレーダーでの終末誘導で、ノルウェーのコングスヴェルグ社のNSM対艦ミサイル(対地攻撃も可能)のような赤外線イメージ画像カメラで終末誘導が可能なタイプではありません。トマホークやカリブルのような対地用の巡航ミサイルが持つ地形等高線照合システム(衛星で撮影した地形画像と照合する)が無いので、等高線に沿って這うような地形追従飛行もできません。
なおロシア軍がKh-22対艦ミサイルで対地攻撃を行っていますが、どうもこれはGPS誘導無しINS誘導(慣性誘導)のみで発射している可能性が高く、半数必中界(CEP)はせいぜい半径100m程度です。INS誘導のみでは大雑把な攻撃しか行えず精密誘導攻撃はできません。
ドローンを巡航ミサイルと見做して「ミサイル攻撃」と表現した?
GPS誘導のプログラム飛行型の自爆ドローン(徘徊型ではないタイプ)は地上固定目標しか狙えず、事実上の「安くて小さな巡航ミサイル」と見做すことができます。これをもってミサイル攻撃と表現している可能性があります。ただし通常ならばドローン攻撃と表現するのが普通です。
あるいは攻撃方法を秘匿するために、今回の公式発表でもわざと正確な事実を説明していない可能性もあります。